台湾「選挙の神様」が見つめる有事に偏らない実像 台湾で最も有名な日本人研究者の軌跡(後編)

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そこで研究者の出番だと思っています。日本で台湾研究をしている人たちが、自分の研究をわかりやすく発信して、当の台湾がどうなっているのか多様な視点で伝える必要があります。日本社会で有事が懸念されているからこそ、私もしっかり発信していきたいと思います。

わかりやすい単純な理解が広がち

――理解が深まらないと焦ってはいけないとわかりつつも、なかなか伝わらないもどかしさはありますか。

それはやっぱりありますね。私以外にも多くの台湾研究者が社会向けに研究成果を発信しているので、ネット上で少し検索すれば正確な知識を得ることはできるようになりました。ただ、台湾を正確に理解しようとすると複雑なので、どうしてもわかりやすい単純な解釈が広がりがちな面があります。地道に研究成果を社会に還元し続けるしかないと思います。

――今後の研究目標や計画はありますか。

今年の9月から台湾の清華大学栄誉講座教授として赴任しています。1年か2年ここで「台湾の政治と選挙」「台湾選挙研究」という授業を開講し、台湾の学生と意見交換をしながら、研究を発展させていきたいですね。

小笠原欣幸
有事の懸念が広がる中、当事者の台湾の視点を研究者として社会に還元したいと語る小笠原氏。習近平体制の行く末も見届けたいと話す(撮影:尾形文繁)

また、清華大学の地元の新竹市の地方政治も研究したいですし、これまでの立法委員選挙研究をまとめた本だとか台湾の地方政治を解説する本を出せればいいなと思いますが、読者はあまりいなそうですね(苦笑)。

――思わぬ形で台湾政治を専門に研究していくことになりましたが、小笠原先生にとって「台湾」とはどういう存在ですか。

小さな島に複雑な歴史的経緯を抱えた多様な人たちが集まっており、長い権威主義体制から民主化したと思ったら、今度は中国からの脅威にさらされて、それがどうなっていくのかというのが台湾への関心でした。中国と台湾のナショナリズムがぶつかり合って極端な政治に向かってしまう可能性もありましたが、そうなってはいけないという自律性をもって少数派も尊重し民主主義の理念と台湾の価値を高める動きが進みました。

国際社会で孤立する中でも、さまざまな要素が重なって政治経済を発展させて落ち着いた社会を築いてきました。それが台湾の面白さでもあり、その30年間の歩みを見続けることができたのは本当によかったと思います。研究者としてこの流れを見守りたいですし、台湾併合に執念を燃やす中国の習近平体制の最後を見届けたいという目標も加わりました。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

東洋経済編集部員・記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。現在は、特集や連載の企画・編集も担当。1994年台湾台北市生まれ、客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説を研究している。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。早稲田大学台湾研究所招聘研究員。ピアノや旅行、映画・アニメが好き。

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