台湾「選挙の神様」が見つめる有事に偏らない実像 台湾で最も有名な日本人研究者の軌跡(後編)

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私自身は学術的に台湾社会や政治を分析して、日本社会の台湾理解につながってほしいと思いその成果を発表しています。ただ、台湾メディアは政治的スタンスがはっきりしていることが多く、各社が応援している政党に勝ってほしいという前提で政治の現状や先行きを議論して、私の分析を使おうとしがちです。

ですので、台湾メディアの取材要請は原則として断っています。しかし、私の写真とコメントが勝手に台湾のテレビなどで使われ議論される状態になりました。対策として、勝手に切り取られても元のコメントの全文が日本メディアの記事や自分のサイトでたどれるようにしています。

逆にプラス面では、各候補者とのアポイントがとりやすくなりました。候補者にとっては海外の学者を相手にしても1票の得にもならないので、以前は簡単には面会申請を受けてもらえずコネを使ったり、日本メディアに同行してもらったり苦心しました。ところが、昨年の選挙の調査では、厳しいスケジュールの中で時間を割いてくれたり予定の幅を多めに取ってくれたり気を使ってくれる陣営が増えました。

現地調査では常にミスリードされるリスクを意識しています。有名になったことでその可能性が増えることを警戒したこともあります。しかし実際はそんなことはなく、どの候補者も率直に話してくれました。

候補者の中には台湾メディアには話さないような選挙現場の実態を率直に語ってくれる人もいて、質の高い情報が集まりました。私は候補者から聞いたことをそのままメディアに話したりネットで書いたりしません。情報を流さないというのを信じてもらえるのは、政党対立から距離を置く外国人研究者の利点だと思っています。

台湾の関心が高まり、研究者の出番

――「台湾有事」が叫ばれていることで、台湾だけでなく日本でも講演依頼やメディアからの取材などが増えていますね。

研究を始めた30年前、日本では台湾に対して限られた関心しかありませんでした。民主化が進んだ李登輝政権後半から台湾のことが知られ始め、日中関係が難しくなるのと反比例するように台湾への関心が高くなり、好感度が高まったと思います。1998年に日本台湾学会という学会が創立されたのも大きかったです。

小笠原欣幸
おがさわら・よしゆき/1981年一橋大学社会学部卒業。1986年、一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了(社会学博士)。東京外国語大学外国語学部専任講師、同大大学院総合国際学研究院教授などを経て、2023年に同大名誉教授。2024年から台湾・清華大学栄誉講座教授。主著に『台湾総統選挙』(晃洋書房、2019年)

ただ、それに合わせて台湾への理解が深まったわけでもありません。もちろん一般の方々は学者ではないので、わざわざ研究書を読むわけではありません。ニュースの見出しなど表面的なところから話をするのは普通で、台湾への理解度が浅いと指摘しても仕方ありません。

ただ、最近はやはり「台湾有事」への懸念にばかり集中して台湾への関心が偏っている点は気になります。有事の議論をきっかけに関心が広がっていくことをダメだという必要もありませんが、それだけでもいいわけではありません。メディアの中には不安を煽る話に集中しすぎて、当事者である台湾は実際どうなっているかの視点が抜け落ちているところもあります。

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