台湾「選挙の神様」が見つめる有事に偏らない実像 台湾で最も有名な日本人研究者の軌跡(後編)

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――予想に使うモデルとは?

簡単に説明すると、総統選挙と立法委員選挙の2つの選挙を選挙区ごとでどれくらいの票がとれるか数値化し、最後に両者を統合しズレを埋めていくものです。

台湾の有権者は、①総統選、②立法委員選の選挙区、③立法委員選の比例区(政党票)の3票を投じます。3票は同じ傾向にはありますが、①と②は別のロジックが働いて票数が出ます。総統選だけを予想しようとすると方向が間違っても気がつかないですが、この②の選挙区情勢を突き合わせて違う角度から見ることで軌道修正ができます。

私の予測モデルとは、この①②③の票数計算のエクセルシートを統合する4枚目のエクセルシートのことです。これはかなり大変な作業で、中でも難関なのが、②の全73選挙区の全候補の得票予想です。うち50選挙区くらいは投票傾向が固まっているので、毎回20数カ所の激戦区に集中して現地調査を行い、選挙情勢を数値化していきます。ここが腕の見せどころで、台湾の地方政治を長年細かく見てきた経験が活きます。この計算ができると各陣営の増減が数値で出てきます。世論調査やメディア報道に頼るだけでは雲をつかむような部分もありますが、選挙区の候補の得票を積み重ねていく方法は実態があります。エクセルでモデルを1回作るとあとは楽になります。

総統選と立法委員選を統合する予測モデルは日本で他にやっている人はいません。台湾でも聞いたことはありません。各党の選対本部は台湾全体の票数は必ず計算していますが、予測にどう使っているのかは知りません。

2つの選挙が同日投票になったのは先ほどお話ししたように2012年からで、まだ歴史は浅いです。その効用にすぐに気がついたことが成功のカギでした。おかげさまで、2016年の総統選挙から非常に高い精度で予想を当て続けられています。データの蓄積は地方選挙の予想にも使えるので、2022年の選挙では全22県市のうち21県市の首長の当選者を的中させました。

2016年に予想と結果が一致で「選挙の神様」に

――2016年の選挙では事前に学会関係者やメディア関係者に送付していた予想が1%以内の誤差で当たり、台湾メディアで「選挙の神様」と呼ばれるようになりました。

そのときわかったのは、ぴったり当たるとメディアの注目度がまったく違うことです。「選挙の神様」との異名が付けられたときはびっくりしましたよ。

台湾の友人たちからも冷やかしで言われるようになり、今ではメディアで私の名前が挙がるときの枕詞にもなってしまいました。気にしてもしかたがないので淡々と受け取るようにしています。

――有名になってしまって研究に支障が出るようになりましたか。

私がどこの選挙区を訪問したかという動向が台湾メディアで報じられるようになったほか、予想を公表すると結果に影響しかねないので、気軽に話せなくなりました。またフェイスブック上で日々の分析について発表したり、日本メディアでコメントや寄稿をしたりしていますが、それが台湾メディアで勝手に翻訳されて使われるようにもなりました。

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