ヨーカドー「大量閉店」で晒された本質的な"弱点" 食品中心の店舗でも透ける「消費者の見えてなさ」
チャイナタウン、といったが、西川口は中国系だけではない、さまざまな人種が交ざり「リトルアジア」ともいうべき街区となっている。特に川口においてフィリピン系の人々は、中国・韓国に続くオールドカマーと呼ばれ、昔からその地に根付いてきた。
一方、西川口周辺にはフィリピン食材店などがほぼないため、フィリピン食材を少し前面に押し出して売るドンキの選択は、競合の多い中国食材を売るより、よほど合理的なのである。
また、1階を日用消耗品にしたのも合理的だ。というのも、周りに日用品がしっかりと揃うところがあまりないから。何か困ったことがあればドンキに行けばいい、となるのだ。
まさに「かゆいところに手が届く」のが、ドンキ西川口店かもしれない。
ドンキの特徴は「権限委譲」にある。これは、売り場や売り方の裁量を現場に任せること。初期の頃から一貫してこのやり方を貫いている。この手法によって、西川口という特殊な街に合わせた商品ラインナップが登場してきたのだ。
かつて、私は『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(2022年、集英社)という本で、ドンキの店舗ごとの特徴について書いた。そこにも西川口店は登場している。ただ、このときの西川口店は、もっと中華食材の扱いが多かった記憶がある。つまり、ここ数年で、その売り方や商品を変えてきたのである。
先ほど、シンガポールのドンキの例を出したが、そこでも焼き芋が売れるとわかるや否や、すぐに他の売り場をなくして焼き芋コーナーを拡充させていた。とにかく、全社的な体制として、現地ニーズの把握と、それに基づく行動が速いのだ。この変わり身の早さがドンキの強みであり、翻って、まだ中華食材を愚直に出し続けるヨーカドーは、その現場力とスピード感が弱みになっているといえるだろう。
消費者の変化、街の変化に対応できているか?
さて、イトーヨーカドー西川口店を訪れながら、その閉店について考えてきた。
イトーヨーカドー西川口店の閉店は、中華食材の扱いを見れば、腑に落ちるものではないか。結局、街に合わせることができていないのだ。中華食材が、「ただ」あればいいのではない。重要なのは、「なぜ、中華食材を置くのか?」ということ。
その根底には「消費者の変化」「街の変化」に合わせる、という理念がなくてはならない。そうした理念がなく、形だけの「地域密着」になってしまっているのが、現在のイトーヨーカドーなのかもしれない。
また、今回は中華食材だけを取り上げたけれど、それ以外の売り場についても同様で、駅前にスーパーがある中、イトーヨーカドーならではの強みが見当たらない。であれば、わざわざイトーヨーカドーで食品を買おうという気持ちにならないのも確かだと感じる。
この西川口店で見た光景は些細なものかもしれない。しかし、そうした小さな光景の積み重ねが、結局、現在のイトーヨーカドーの凋落を物語っているのかもしれない。
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