涙の告発で露呈したナベツネ帝国のリスク

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涙の告発で露呈したナベツネ帝国のリスク

プロ野球巨人の清武英利球団代表兼ゼネラルマネジャー(GM)は11月11日、来季のヘッドコーチ人事をめぐり、ナベツネこと渡邉恒雄球団会長(読売新聞グループ本社会長・主筆)を告発。「基本的人権をないがしろにした」「会社の内部統制、コンプライアンスに大きく反する行為」と激しい言葉でグループの最高権力者を批判した。

異例の告発はスポーツ紙だけでなく大手全国紙も読売新聞を除き、こぞって大きく取り上げた。震災後の落ち込みから、1000万部への復活を目指す業界最大手・読売新聞の屋台骨を揺るがすスキャンダルに見えたためだ。

ところが、その後の球団社長の桃井恒和氏、渡邉会長の反論を支持する声が多く、清武氏の分は悪い。両者が法廷などで全面的に対決する可能性も低く、「清武氏の暴発」として、事件は尻すぼみになりつつある。

首脳人事で社内震撼

ただ、今回の告発の背景には、85歳になる渡邉会長が、鶴の一声で人事に介入することへの不満がある。これは巨人軍の人事に限ったものではない。根雪のようにグループ首脳の間に蓄積されてきた。

特に、今年に入ってから渡邉会長は大胆な人事で社内を震撼させた。6月、後継者だった9歳年下の内山斉氏を読売新聞グループ本社社長から放逐したからだ。

同時に、内山氏の後継とも見られていた老川祥一・東京本社社長も退任し、一回り若い白石興二郎氏がグループ本社と東京本社の両社長を兼務することになった。同じ6月には、巨人軍の実力者だった滝鼻卓雄オーナーも最高顧問へ退いている。

 

 

内山氏が退任した公式の理由は「家族の看病をするため」というものだが、夫人は至って健康のようだ。2009年に内山氏が日本新聞協会会長を務めるようになった前後から、社内外の求心力が内山氏へ移動しつつあった。そのことに不満を感じた渡邉会長が首を切った、というのが真相のようだ。

「読売新聞は(中興の祖とされる)正力松太郎さんも務臺光雄さんも亡くなるまで権力を握り続けた。そのため晩年はいろいろな問題が発生する。この会社の宿命だろう」と元毎日新聞常務のジャーナリスト・河内孝氏は分析する。

「天の配剤と感謝していたこの交友が消えてしまったことは、私の人生最大のショックです」──3月に亡くなった同年同月生まれの盟友、氏家齊一郎・日本テレビ会長のお別れの会に、渡邉会長はこのような弔文を寄せた。「氏家さんがストッパー役になっていたが今のナベさんは完全にワンマンだ」と関係者は言う。人事の混乱は今後とも多発することは間違いない。

(山田俊浩 =週刊東洋経済2011年11月26日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

 

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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