ロシア鉄道は日本の何を狙っているのか 「プーチンの右腕」が明かした目的の一端

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現在のシベリア鉄道の輸送力は「まったく足りない」(ヤクーニン氏)。インフラの老朽化、コンテナやワゴンの不足など、課題は山積しており、その対策として1兆1240億ルーブル(約2兆2500億円)を投じる計画だ。投資額は自己資金や国の予算で賄うという。

ロシア鉄道には、サハリン(樺太)と北海道・稚内を海底トンネルでつないで貨物列車を走らせる構想がある。ただ、これについては「かねてから、ロシア本土とサハリンをつなぐ計画を検討しており、これは非常に実現性が高い。サハリンと稚内をトンネルで結ぶのは、その後の話だ」とした。そのうえで、「技術的には十分可能であり、遅かれ早かれ造られると信じている」と実現への自信も示した。

また、同社は北朝鮮国境近くの都市ハサンと北朝鮮の羅津を結ぶ路線を2013年に改修した。従来のウラジオストクやナホトカ経由だけでなく、羅津港経由でシベリア鉄道に乗り入れるルートを日本企業に提案したいという。

密かに行われた安倍首相との会談

記者会見の翌日、世界高速鉄道会議の開会式が東京・大手町の国際フォーラムで行われた。各国の鉄道会社の代表者が壇上でプレゼンテーションを行っているさなか、議長のヤクーニン氏がすっと席を立って壇上から姿を消した。

開会式のスケジュール表に記載はなかったのだが、安倍晋三首相が登壇し、祝辞を述べるとの情報が事前から流れていた。ヤクーニン氏の離席は安倍首相を出迎えるためだと感づいた人も少なくなかっただろう。

単なる出迎えにしては長すぎる時間が経過した後、ヤクーニン氏と安倍首相が姿を現した。このタイミングを利用して両者の会談が行われたのだ。そのときに何が話し合われたのか。開会式後の記者会見で、ヤクーニン氏は「サハリンを通じてロシアの大陸と日本とを結ぶ将来のプロジェクトについて、安倍首相と短時間話した」と明かした。

貴重な時間を遠い未来の話だけで終わらせるはずはない。プーチン大統領のメッセージを安倍首相に伝えることが本当の目的だったのかもしれない。ロシア国内の鉄道プロジェクトへの参加要請だったとも考えられる。

会談の真相は、今もまだ漏れ聞こえてはこない。だがもし、そう遠くない将来、鉄道分野も含めた日ロ関係に何らかの変化が生じたとすれば、今回の安倍・ヤクーニン会談がターニングポイントだったのだと思い返す可能性は十分にありそうだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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