土壇場での文言修正、東電「調査報告書」の曲折
調査委では、廃炉費用や不動産の含み益を加味し、実態的な純資産(資産−負債)を算定した。一方、巨額損害賠償の引き当ては、新設した原子力損害賠償支援機構(支援機構)の資金交付で相殺される前提で考慮をしていない。
冒頭の下河辺委員長の発言はまっとうにも聞こえるが、数兆円とされる賠償金を加味すれば、実質債務超過との見方もできる。案では、「このような前提を置いて実態連結純資産の試算を行うべきかどうかについては議論がありうる」とし、債権放棄の可能性を残した。
金融関係者も報告書の紆余曲折を察知しており、「鉢呂さん(前経済産業相)だったら、こうならなかったのでは」との声も聞かれる。
その後任となった枝野幸男担当相は、官房長官だった5月の会見で「(銀行で債権放棄がなされない場合)国民の理解を得られることはないだろう」と発言。
9月12日の経済産業相就任会見でも、「(公的な)支援がなかった場合にどうなるか想定し、それに応じたコストは負っていただきたい」と、銀行へ追加的な負担を求める考えをにじませた。
ある銀行幹部が「調査委員会も、当然、上(枝野氏)を見るはず」と言うのは、報告案の中で担当相の考え方に“配慮”したという見立てだ。
もっとも、調査委員の一人は「債務超過にはならないから、債権放棄はおかしいと最初から言ってきた。大事なのは最終報告だ」と、土壇場変更の経緯については口が重い。