トランプはアメリカを滅ぼすからこそ「英雄」だ 臨界点に達する「追い詰められた白人」の絶望

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アメリカの思想的状況については、中野剛志氏らとの共著『新自由主義と脱成長をもうやめる』でも論じましたので、ぜひ、あわせてご覧ください。

とまれ、トランプが根強く支持されるのには、経済と思想の両面において相応の理由が存在するのです。

トランプはゴジラではなく「ダミアン」だ

『それでもなぜ、トランプは支持されるのか』の冒頭、会田氏はトランプをゴジラになぞらえました。

何度撃退しても、繰り返し現れるからというわけですが、なぞらえる対象としてより適切なのは、1976年に大ヒットしたホラー映画『オーメン』の主人公ダミアンでしょう。

 

ダミアンは悪魔の子。

世界を滅ぼす使命を負っており、アメリカのエリート外交官ロバート・ソーンの家庭に入り込む。

しかるに幼少期から、周囲では人々が無残な死を遂げます。

事の真相を知ったロバートは、ダミアンを倒そうとするものの、土壇場で逆に殺されてしまう。

そして映画は、悪魔の子が大統領夫妻に引き取られる(つまりホワイトハウス入りを果たす!)ことを暗示して終わります。

 

これはトランプの名誉を貶めるものではありません。

世界を滅ぼすから邪悪だというのは、既存の秩序の正当性を擁護しようとする者の発想であり、くだんの正当性を否定する者にとっては、ダミアンこそ賞賛されるべき英雄なのです。

だいたいダミアンの勝利にたいし、観客がどこかで共感しなければ、映画が大ヒットするはずがない。

カナダの評論家ロビン・ウッドのコメントをどうぞ。

「悪魔の子がエリートの世界を着々と滅ぼすさまを、観客はひそかに楽しんでいるのだ。『社会が滅びるのを見たい。本当に滅んだって構うものか』という気持ちが人々になければ、『オーメン』は意味をなさない」(ロビン・ウッド『ハリウッド──ベトナムからレーガンまで』、コロンビア大学出版部、アメリカ、1986年、88ページ。拙訳)

だがお立ち会い。

アメリカの政治コメンテーター、タッカー・カールソンはこう喝破します。

「幸せな国がドナルド・トランプを大統領に選んだりするものか。そんなことをするのは絶望した国だけだ」

 

トランプはアメリカを滅ぼすからこそ英雄なのです。

国の正当性が破綻をきたし、絶望した人々が大勢いるからこそ支持される。

むろんそれは、アメリカが機能不全の瀬戸際にあることの表れ。

 

きたる大統領選挙の結果がどうなろうと、この点は変わりません。

そして戦後日本が、アメリカへの従属を一貫して決め込んできたのを思えば、これはわが国も機能不全の瀬戸際にあることを意味するのです。

佐藤 健志 評論家・作家

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さとう けんじ / Kenji Sato

1966年、東京都生まれ。東京大学教養学部卒業。1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞。1990年代以来、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)をはじめ著書・訳書多数。またオンライン講座に『痛快! 戦後ニッポンの正体』(経営科学出版)、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』(同)がある。

 

 

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