だが、サイコパスは、どちらにするべきか、そこまで悩まない。彼らは、あまり思いやりがなくて実利的な傾向にあり、邪悪でも自己の利益に適う行動を選ぶことが、調査によってわかっている。
自らを救うために何か不埒(ふらち)なことをする段になっても、サイコパスはそれほどためらわない。
この発見は、憂慮するべき結論を示唆している。現代社会では、道徳的な内省とは無縁でいるのが得策なのかもしれない。
道徳意識を持たないCEOや大統領や首相が出てくるかと思うと、ゾッとする人もいる。
その一方で、耐え難い道徳的選択に絶えず直面する人が、思いやりを無視して現実的な費用便益に焦点を合わせられることを、心強く感じる人もいる。
問題は、精神病質の指導者が、自分にとっての費用便益だけを考慮に入れるのか、それとも、他者のことも考えるのか、だ。
サイコパスは出世するが有能ではない
幸い、これらの疑問は検証することができる。冷徹で計算高い脳は、そうでない脳よりも性能が良いのか? 共感の束縛を解かれることは、1つの才能なのか?
ブリティッシュ・コロンビア大学のリーン・テン・ブリンク教授が私に語ってくれたように、証拠はそうではないことを示している。
「サイコパスは、魅力的でカリスマ性を持っているように見えるので、出世します。ところが、精神病質的な特性をあまり持っていない人ほど有能ではありません」
テン・ブリンクは選挙で選ばれた議員の調査を行った。すると、驚くべきことがわかった。
ダークトライアドの傾向が強い人のほうが、もっと正常な脳の人よりも再選されやすいが、法案を成立させるのが下手だった。彼らは投票者を説得して自分に権力を与えさせたが、その権力を効果的に使えなかった。
だとすれば、ダークトライアドは社会にとって二重の意味で有害だ。ダークトライアドのせいで、権力を濫用する人が出世するが、その後は期待外れの働きしかしないからだ。
テン・ブリンクは、101人のヘッジファンド・マネジャーの調査も行った。ヘッジファンド・マネジャーのプロとしての腕前は、彼らのあげる投資収益によって簡単に測定できる。
経済成長が続いている時期にたまたま運に恵まれた人を選んでしまうのを避けるために、この調査では2005〜2015年の10年間にわたる成績を調べた。
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