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誰もが振り向く姿になった33歳彼女が得た優越感 小説『コンプルックス』試し読み(2)

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時々、シーシャが涙の味がするのを祐子は感じていた。

そんな過去を振り返りながら上野駅から歩くこと5分、祐子はchill chillミチルのあるビルの下に辿り着いた。

『コンプルックス』(サンマーク出版)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

エレベーターで8階に上がると間接照明でライトアップされた入り口の看板が祐子を“ようこそ”と言わんばかりに待ち構えている。

いつもより軽く感じる扉を開けると、店長のミチルが祐子を出迎えた。

店長のミチルは耳はもちろん、鼻、舌、へそ、などところどころにピアスを開け、パンクなファッションに身を包む、スレンダーな美女。

せっかく一般男性にもウケる容姿のミチル。それなのに、ピアスを開けまくっている理由は、「どうでもいい男が寄ってこないように」するため。

そんな予防線に、祐子は何度ジェラシーを抱いたかわからない。

ところで、そんなミチルの出迎え方が今までとはまるで違うものだった。

別人の人生を歩んでいるのだ

「いらっしゃい、ゆうこりん。髪型変えた!? それにしてもあなた、何しても似合うのね。本当に罪な子。席もシーシャも飲み物もいつもので良いのよね!?」

元の世界では、

「いらっしゃい、ゆうこりん。今日も一段と頬骨が出っ張ってるわね。油断したら刺さりそうよね。でもそんなゆうこりん好きよ♡ あっ、褒め言葉になってないか!? ははは」

と祐子を出迎えたミチル。

そうやって容姿のことを包み隠さず突っ込みながら、自分の存在を受け入れてくれているミチルの存在が祐子にとって心地よかった。

それが祐子がこの店に通う、大きな理由だった。

しかし、今や、美人として扱われている。しかもあのミチルから。つくづく、別人の人生を歩んでいるのだと、祐子は改めて実感した。

祐子は、外のバルコニーの席も店内の席も全体が見渡せる座り心地の良いお気に入りのソファー席に腰をおろした。

(第3回に続く)

(※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係がありません)

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