誰もが振り向く姿になった33歳彼女が得た優越感 小説『コンプルックス』試し読み(2)

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ただ存在しているだけで美人はこんなにも幸福なのか。ほんの数分の移動の間だけでもブサイクと美人の幸福度の違いを祐子は強烈に実感していたのだった。

祐子は上野駅の不忍口の方から駅を出て上野広小路の方面へ歩みを進めていた。

祐子は先ずどうしてもこの美貌を手に入れて最初に行きたい場所があった。そこは祐子の行きつけのシーシャバー「chill chillミチル」であった。祐子が働くネイルサロンの近所でルーフバルコニーに観葉植物がお洒落にレイアウトされている祐子の憩いの場所であった。

美貌を手に入れた今だからこそ

そのシーシャバーに祐子が真っ先に行きたかった理由はとてもシンプルである。そこのシーシャバーには明らかに垢抜けたハイスペックな男性客が集まってくるからである。そして、その店の最大の特徴は、洗練されたハイスペ男性客とその男に似つかわしい女性客がリアルマッチングしていることにある。

もちろん祐子は、その恩恵を享受したことはなかった。だからこそ、美貌を手に入れた今、そんなシーシャバーで恩恵を受けてみたかったのである。

シーシャバー「chill chillミチル」の暗黙の出会いのシステムは以下の通りである。

男性客が気に入った女性客を見つけると店員にそれを伝える。

そして店員が交渉をする。

「あちらのお客様が相席を希望されていますが、いかがなさいますか?」

断る権限を女性客に与えつつ相席を希望している男性客を手で指し示し人となりを伝え交渉を進める。

言うまでもないが祐子は、一度も相席を希望されたことはない。

そんなわけで祐子は相席を希望され、白々しくも勝ち誇った女性達の表情をいつもシーシャをプクプクふかしながら、そして、ただただ指をくわえながら見送っていた。

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