沖縄で米兵の犯罪がかくも続く根本的な理由 沖縄県に連絡しなかった以外の深い問題(前編)

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米兵が基地のゲートを出入りする時はアルコール呼気検査も実施している。飲酒運転が発覚すると基地内外での運転免許停止などの罰則も適用される。

問題は基地外での米兵の行動は制限できないことだ。基地の出入りには門限があり、基地内の宿舎に住む米兵の行動を制限しているが、外泊して遊ぶ米兵には関係ない。そして、外泊したときに事件・事故を起こす。

米兵が外泊して遊ぶ基地の貧相な娯楽事情

米兵が外泊して遊ぶ理由には2つある。ひとつは基地内に娯楽が少ないこと、もうひとつは若い男性集団ならではの「文化」だ。

米軍基地内に住まわされる米兵は、主に単身者(独身やローテーション配備の米兵)だ。家族用宿舎もあるが、住んでいるのは幹部の世帯が中心だ。行動制限を嫌がって、家族のいる米兵は基地外に住みたがるからだ。

家族のいる米兵は、基地内住宅の入居率が98%を超えるまでは基地内居住が義務づけられるが、超えた後に沖縄に配属される場合には基地の中と外どちらに住むか選択できる。基地外に住むと、高額な住宅手当のほかに光熱水道費手当なども支給される。ただし、沖縄本島中部にある北谷(ちゃたん)町砂辺の市街地には近年、単身者用の米軍専用アパートが建てられており、基地内の単身者用宿舎に空きがなく、単身者が基地外に1人で住んでいる可能性もある。

基地内の単身者用宿舎には、ホテルのツインルームより狭い、2人で1つ割り当てられる部屋とは別に台所、リビングルーム、娯楽室がある。しかし、台所は料理の温め直しやサラダを作れる程度の設備しかなく、娯楽室には大画面のテレビ、ダーツ、ビリヤードくらいしかない。

台風などで壊れたまま放置されることも珍しくない。米軍基地内の施設の維持・改修費用は日本政府の「思いやり予算」でまかなわれているが、2011年度を境に娯楽施設はその対象から外れ、米政府の予算の中でも後回しにされがちなためだ。

基地内のレストランの娯楽設備も、ビーンバッグトスゲームの道具が加わる程度で似たようなものだ。在日海兵隊司令部があるキャンプ・コートニー(沖縄県うるま市)の食堂には、小さいが真新しいダンスフロアとカラオケもあるが、毎日利用するほどの魅力はない。映画館も各基地内にあるが、思いやり予算が使えないので老朽化しており、デジタルや3Dの映画が見られない。

例外はカジノだ。日本を含め12カ国の米軍基地内に3000台以上あるスロットマシンは、2018年に米兵のギャンブル依存症が米連邦議会上院で取り上げられたほど人気だ。沖縄では、一般開放されている米空軍保養施設タイヨーゴルフクラブ(沖縄市・うるま市。日本政府が2010年に整備)内にも、スロットマシンがある。

なお、沖縄県内にはタイヨーゴルフクラブ含め、4コースの米軍ゴルフ場(いずれも空軍の管理)がある。アメリカのゴルフ人口の約半数は6〜34歳だが、若年層の間で人気なのはYouTuberがSNSで広めたオフコースゴルフという、公園などゴルフ場以外の場所でゴルフを楽しみ、ボールの軌道のライティングと音楽でプレイを盛り上げる新種の遊びだ。昔ながらのしかも老朽化した沖縄のゴルフ場は、若い米兵の間ではそれほど人気がないようだ。

(7月5日配信の後編に続く)
山本 章子 琉球大学准教授

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やまもと あきこ / Akiko Yamamoto

琉球大学人文社会学部国際法政学科准教授。1979年北海道生まれ。一橋大学法学部卒。編集者を経て、2015年一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。沖縄国際大学講師、琉球大学専任講師などを経て2020年4月から現職。専攻・国際政治史。著書に『日米地位協定 在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書)、『米国と日米安保条約改定――沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年、日本防衛学会猪木正道賞奨励賞受賞)など。

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