侵略へ感度なき日本、平和への防衛負担を公平に 太平洋戦争の地上戦から見る戦争の教訓(後編)

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日本本土周辺の各地では終戦までに凄惨な地上戦が繰り広げられた。今の私たちは教訓として何を導き出せるのかを前後編で考える(後編)。

沖縄の平和記念公園
沖縄で6月23日は「慰霊の日」だ。先の大戦から平和のために何を学び、今後何が必要なのか。写真は沖縄平和祈念公園(写真:PIXTA)
6月22日に配信された本記事の前編はこちら

終戦の過程を左右した各地の地上戦では、本土防衛のために行われた日本軍の「捨て石」作戦と、民間人の根こそぎ動員・集団自決という共通のパターンが繰り返されたことを前編で指摘した。

日ソ戦では、ソ連軍による略奪・暴行や強制連行も加わった。後編では、最新の研究である麻田雅文『日ソ戦争』(中公新書)に依拠しながら、現在進行形で行われるロシアのウクライナ侵略と重なる日ソ戦の実相にも触れる。

また台湾有事をめぐる議論に象徴されるように、本土防衛のために辺境を戦場とするという政策決定者の発想が、戦後もまったく変わっていないという現実も論じる。これの裏返しとして、台湾有事に「巻き込まれない」ための議論にも問題があることを第1次・第2次世界大戦のベルギーの歴史を参照しながら同時に指摘する。

停戦に応じなかったソ連

ソ連は東京大空襲の翌月、アメリカ軍の沖縄島上陸直後の1945年4月5日に日本に対して翌年に有効期限満了を迎える日ソ中立条約を延長しないと通告した。にもかかわらず、日本政府はソ連に戦争終結のための仲介を期待し続ける。米英両国との直接交渉を避け、ソ連の仲介に固執したのは、日本に有利な条件で終戦するためだった。

1945年7月末に、米英中3国は日本軍の無条件降伏を求めるポツダム宣言を発表した。ソ連の署名がないことから、日本政府はソ連に終戦仲介の意志があると都合よく解釈してポツダム宣言を「黙殺」しソ連との交渉に望みを託す。実際には、ソ連不信からアメリカが単独でポツダム宣言を作成、ソ連とは一切協議せずに発表したにすぎなかった。

むしろ、米ソ関係が悪化する中でアメリカがソ連への予告なしに8月6日、広島に原子爆弾を投下したことで、ヤルタ会談での密約が反故にされるのではないかとアメリカへの不信を強めたソ連は対日参戦を早める。ルーズベルト大統領はヤルタ秘密協定で、樺太・千島交換条約で日本領となった千島列島のソ連引き渡しや、日露戦争で日本が得た南樺太のソ連「返還」を認めていた。

ソ連の攻撃開始からわずか1日後の8月10日、日本政府は「国体〔=天皇による日本統治〕護持」のみを条件にポツダム宣言受諾を連合国側に表明した。ソ連の仲介で終戦する可能性がなくなったことが、日本側にどれだけ深刻な衝撃を与えたかが分かる。

だが、ソ連は無条件降伏でないことを理由に日本への攻撃を継続した。逆にアメリカは、天皇の権限を連合国総司令部の下におくことを条件に、降伏を認める回答を行う。昭和天皇の「聖断」で日本側が受諾を返答したのが8月14日深夜、翌日正午に米軍が停戦、同時に玉音放送で日本国民に敗戦が知らされた。それでも、ソ連は停戦に応じなかった。

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