過去の成功体験は捨てロングセラー育成に転換--資生堂社長 末川久幸
顧客の持つ情報量が拡大 遅れる宣伝、販路の対応
しかし今はテレビを見る顧客が減っているうえ、インターネットで製品情報を自ら調べたり、口コミサイトやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で顧客同士が意見を交換したりしている。かつて井戸端会議で行われていた情報交換が、自宅や通勤電車の中でも携帯電話やパソコンさえあれば簡単にできる。圧倒的に顧客の持つ情報量が増えた。
ただ、だからといって顧客が自分の欲しいものを買いやすくなったわけではない。化粧品の口コミサイトで「マスカラ」と検索すると、2800件近くの製品がヒットする。情報が多すぎて自分に合った製品がどれなのかわからない。だからこそ20~30歳代の女性の間ではカウンセリングに対するニーズが高まっているという、当社の調査結果もある。
しかし、若い女性にとって百貨店は敷居が高い。化粧品専門店は行きたい時間に開いていない。ドラッグストアは低価格のセルフ化粧品中心の売り場作りになって、カウンセリングを受けにくいのが現状だ。
──時代の変化の中、資生堂の戦略が通用しなくなってきた。
新製品を春夏秋冬の4回投入し、毎回大型の宣伝をかける。そういった従来の戦略は、高度成長で顧客が右肩上がりに増える時代にはうまくいっていた。しかし、少子高齢化が進み、他社との競争が厳しくなるうちに埋没してしまった。
とはいえ、新製品が出て、テレビCMが流れれば、美容部員や営業など販売第一線は製品を売り込みやすい。本社も販売の声を前提に、次々と新しい製品を出した。製品のライフサイクルが短くなり、投資効率が悪くなっていった。
研究所の開発部門も、発売時期に新製品が間に合わないと本社からしかられる。ほんの1カ月発売を遅らせれば顧客満足度の高い製品が完成したのに、「予算をすでに組んである」「流通に対する戦略上この日程でないとダメ」などと、売り手の論理を優先して発売してしまった化粧品が何品もある。そうした結果、顧客が離れていってしまった。