対話の現場/「世間」に配慮しつつ対話を成立させるには

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ここでフランスの美術教師が登場して、この結果についての説明を始める。すなわち、フランスにおける芸術教育とは、作者名や作品名を暗記することではない。作品について、自分の意見を主張できるようにすることが大切なのだ、というのである。確かに、先述の検証において、絵についてのコメントを求めたところ、日本人が平均4秒程度しか話せなかったのに対し、フランス人は皆40秒以上にわたって主張を繰り広げたのだった。

こういうのを見ると、日本の教育について深く反省したくなってしまう。悪いクセである。表面的な知識を丸暗記して何の意味があるのだろう。自分の目でよく見ること。自分の美意識に照らして評価すること。そして、自分の言葉で主張すること。そういったことを教えるのが、本当の教育ではないだろうか──。

ただ、この問題については、別の表現も可能である。

世界的名画という、万国共通の「価値」について、基本的な情報を的確に押さえておくことと、何の知識もなく好き勝手な「個人的意見」を主張することを比べたら、どちらのほうが意味があるだろうか?

世界中のどこの誰とでもコミュニケーションを図っていくのなら、基本的な情報を押さえておいたほうが有用だろう。共通の話題を見つけやすいからである。特に社交の会話においては、個人的見解を主張するよりも、まずは話題についていけるかどうかが問題になるのだ。

国際的な「世間」に配慮するうえでも、基本的な情報は押さえておいたほうがよい。国によっては国民的芸術家がいて、国民の誇りになっていることがある。こういう国の人々と話す場合は、とりあえずは相手におもねっておいたほうが身のためである。「個人的意見」を主張し、価値観の違いをすり合わせていくのが対話ではあるが、身に危険が及ぶようでは元も子もないのだ。

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