遠い恒星へと旅するのに必要な驚愕のエネルギー 光速の50%を超える速度で飛行するとしたら

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でも、ちょっと待って。この例で、私たちはガソリンから話を始めた。ガソリンの原料は石油だが、石油をガソリンにする過程にはさまざまな段階に効率の悪い箇所がある。

また、宇宙飛行専用の推進剤について考えるとき、推進剤の製造過程や推進システムの製作過程に存在する非効率性は無関係と見なすのが普通だ。なぜなら、それらが総飛行時間や宇宙船の大きさに影響を及ぼすことはないからである。

しかし、一連のコストや、推進剤製造に必要なインフラについての議論となると、それらの非効率性も問題になる。

じつのところ、これらの過程にもさまざまな非効率性があり、星間ミッション実施までの道のりを一層困難にしているのだ。

恒星間の途方もない距離を現実的な長さの時間で移動するには、高速飛行が実現できるような推進システムの開発が鍵になる。

高速で飛行する宇宙船が衝突したら?

そもそも、それほどの高速での飛行自体が、大きな問題を孕んでいる。先ほど述べたように、現実的な最小の星間宇宙機は質量が1キログラムで、0.1cで飛行しているときには、450兆ジュールの運動エネルギー(その運動に付随するエネルギー)を持っている。

宇宙船の指向性をコントロールする技術や進路指示(ナビゲーション)技術が不十分で、探査機がコースから外れてしまい、ある惑星に想定外の衝突をしたとすると、探査機は衝突した瞬間に爆発して、持っていたエネルギーをすべて解放するだろう。

その破壊力は広島に投下された原子爆弾7個分(1個当たり15キロトン)に相当する。そしてこれは、平均的なマスクメロン1個分の重さの宇宙船の場合の話だ。0.1cで飛行するボイジャー級の宇宙船なら、7万9000キロトンのエネルギーで衝突することになる――広島型原爆5000個を優に超える!

そして、ここまでの話では、宇宙船は光速の10%の速度でしか飛行していない。超高速星間旅行が実現したとき、それに使われる宇宙船には光速の50%を超える速度で飛行しなければならない。こんな速度になると、マスクメロンぐらいの宇宙機でも広島型原爆220個分のエネルギーになる。

太陽系以外の恒星系への初の使節団が、せっかく人類初の異星人との接触を果たすところだったのに(目的地に異星人がいたとしてだが)、着陸で失敗して、奇襲攻撃と誤解されないようにしなければ!

(翻訳:吉田三知世)

レス・ジョンソン 物理学者、NASAテクノロジスト

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Les Johnson

物理学者。Graphene: The Superstrong, Superthin, and Superversatile Material That Will Revolutionize the WorldSolar Sails: A Novel Approach to Interplanetary TravelThe Spacetime Warなどの多くの著書がある。NASAの初めての惑星間ソーラー・セイル宇宙ミッションや、NEA Scout、ソーラークルーザーの主任研究者。

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