イランのイスラエル攻撃でウクライナが嘆く理由 NATO非同盟国への対応の違いが招く戦争リスク

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今年に入り、共和党が過半数を占めるアメリカ下院は対ウクライナ支援予算を通すことができず、4月15日にジョンソン下院議長はイスラエルとウクライナへの支援を今週、別個の法案として審議すると述べた。上院を通過した法案は総額950億ドル規模でウクライナ支援に600億ドル、イスラエル支援に140億ドルを充てるとなっている。

ウクライナ支援がこれ以上遅延すれば、ウクライナは取り返しがつかないほど疲弊し、欧州全体が戦争の危機に陥る可能性もある。ゼレンスキー氏は「今、全世界がイスラエル空域と近隣諸国におけるイスラエル同盟国の行動から、テロを防御するために一致団結する効果がいかに大きいかを目の当たりにした」と述べた。

全面戦争にエスカレートする危険性

今、最も注目されているのは、イスラエルのイランへの報復がどのような形で実行されるかだ。ユダヤ教で言う「目には目を歯には歯を」の考えが頭をもたげることが懸念されると、イギリスのBBCは指摘する。そうなれば全面的な地域戦争に至る可能性がある。シリアのイラン在外公館を全壊させるほどの大規模なエスカレーションには、エスカレーションで応える必要があると、イラン政府は判断した。

実際、ガザ攻撃ではハマスがイスラエルを攻撃して奪ったユダヤ人の命は約1200人で、対する25倍の3万人以上のガザ市民やハマス活動家をイスラエルは殺害した。この報復の応酬こそ中東地域全体を巻き込む全面戦争にエスカレートする危険をはらんでいる。

アメリカ依存のNATOからの脱却を模索する欧州諸国も、イスラエル寄りの外交を続ける一方で、マクロン仏大統領は「ウクライナ紛争はロシアに勝つしか終結の選択肢はない」と言明し、対ロシア懐柔策から距離を置き、場合によっては地上軍派遣もやむをえないと発言している。NATOが本気でウクライナの空を守れなければ、ロシア軍によるEU域内攻撃の可能性も出てくる。

皮肉にもウクライナをネオナチと同一視する発言を繰り返すロシアのプーチン大統領からすれば、ロシアに近いイランのイスラエル攻撃を表向き自制するよう要請したものの、結果的に西側諸国がイスラエルの防衛支援には迅速かつ大規模に対応したことで、ウクライナ防衛とのダブルスタンダードが歴然だったことから、ウクライナをあざ笑っている可能性は高いとも言えそうだ。

安部 雅延 国際ジャーナリスト(フランス在住)

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あべ まさのぶ / Masanobu Abe

パリを拠点にする国際ジャーナリスト。取材国は30か国を超える。日本で編集者、記者を経て渡仏。創立時の仏レンヌ大学大学院日仏経営センター顧問・講師。レンヌ国際ビジネススクールの講師を長年務め、異文化理解を講じる。日産、NECなど日系200社以上でグローバル人材育成を担当。

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