思えば、「100分de名著」のプロデューサー就任当初の私は、気負いすぎて番組を自分色に染め上げることばかり考えていた。すると当然、現場とは正面からぶつかり、ぎくしゃくする。だが、岡倉天心の『茶の本』を読み返す中で、自分がまず「虚」になってみることに思い至った。
それは決して主体性の放棄ではない。いったん立ち止まり、現場の声に虚心に耳を傾けてみる。すると、今までの支配的な振る舞いの中では見えなかった、現場の細やかな意見や番組の素材の原石的な魅力が、空っぽな自らの「器」の中で、自在に躍動し始める。
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