トルコのEU加盟が欧州にもたらす利益--イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト
欧州とイスラムの橋渡し役として
1923年にケマル・アタチュルクが共和国を建国して以来、一貫してトルコを統治してきたのは、非宗教的で親欧州派のエリートたちだ。
今、彼らは二つの問題に直面している。一つはEUへの加盟問題である。もう一つは、彼らの特権的な地位が、地方に支持基盤を持ち、より宗教的で、あまりリベラルではない新エリート集団によって脅かされていることだ。新エリートは極めて高い人気を誇る、レジェップ・タイイップ・エルドアン首相が率いている集団なのである。
親欧州派のエリートにとって、EU加盟はエルドアン首相に代表されるイスラムポピュリズムの潮流に対抗する生命線となる。
ただし、EU加盟によって恩恵を得るグループは、古い特権的エリートだけではない。少数民族もEU加盟で恩恵を得る。スペインのカタロニア人や英国のスコットランド人のような少数民族と同じように、トルコのクルド族もEU加盟を支持している。なぜならEU加盟は、自国の多数派からの避難所を提供してくれるからだ。
欧州の人々の間には、人口約7800万を有するトルコのEU加盟をおそれる声は強い。ただ、その危惧は誇張されすぎている。トルコの経済は活況を呈しており、貧しいトルコ人が他国へ移住しようとする理由は乏しくなってきている。
西欧を志向するトルコ人にとって、EUの加盟国になることで得られる誇りは、加盟を拒否されることによる痛みほど重要ではない。同じことが欧州人にもいえる。イスラム世界で最も西欧化され、最も近代的で、最も民主的な共和国が反欧州の感情を抱くことは、西欧だけでなく世界にとっても好ましくはない。