静岡リニア「開業10年遅れ」JR東海の経営大丈夫? 突然辞任、川勝知事の「置き土産」が及ぼす影響

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むしろ気になるのは、リニアの開業遅れがJR東海の経営に与える影響だ。

短期的・中期的にはまったく影響ないどころか、財務面ではプラスとなる。東海道新幹線の収益力は高い。コロナ禍前の2018年度におけるJR東海の運輸セグメントの業績は売上高1兆4613億円に対して営業利益は6648億円だった。売上高営業利益率は45.4%である。ここから在来線の収支を差し引いた東海道新幹線の利益率がさらに高いことは、容易に想像できる。

コロナ禍の影響が残る2023年度の業績予想においても運輸セグメントの売上高1兆3670億円、営業利益4980億円。リニア計画を作成した時点の運輸セグメントの収支見通し(2006〜2010年度業績予想の5年平均)は売上高1兆2049円、営業利益3485億円なので、リニア開業前の収支想定を大きく上回っている。今後コロナ禍の影響が減れば収支は2018度の実績に近づいていく。収支が想定を上回っているだけでなく、リニア開業が10年遅れれば、JR東海は東海道新幹線で得た利益を内部留保する期間が10年延びる。2008年度から2018年度の10年間でJR東海の利益剰余金は2兆円以上増えた。今後もそのペースで蓄積できれば、財務面での安定性は増す。

「開業10年遅れ」が生む懸念

しかし、長期的には話が違ってくる。リニアが開業すれば工事費用の減価償却が始まる。品川―名古屋間だけで約7兆円の工事費がかかる。車両や橋梁など固定資産の種類によって償却期間はさまざまだが、仮に全額をトンネルの税務上の耐用年数である60年で定額償却すれば毎年1166億円の減価償却費が発生する。そのため、リニア開業前の利益水準を下回る可能性がある。その後は名古屋開業後に連続して行われる名古屋―新大阪間の工事費用の減価償却が控えている。これらの点はリニアの事業計画に織り込み済みだが、想定外の事態としては開業が10年遅れると、総額3兆円の財政投融資の返済時期と重なってしまう。

リニア 東百合丘工区 工事
リニア中央新幹線東百合丘工区(神奈川県川崎市)で進むトンネル工事の現場(撮影:尾形文繁)

返済期限は2055年から2056年にかけて。JR東海は「10年程度かけて返済する」としており、2046年頃から返済を始める計画だ。本来のスケジュールであれば2046年とは大阪開業から9年経ち、経営が安定している時期である。しかし、開業が10年以上遅れた場合、開業直前の資金需要が増える時期と財政投融資の返済時期が重なる可能性がある。この点についてJR東海に問い合わせると、「返済額は金融機関からの借り換えなどで対応し、健全経営と安定配当を堅持する」と回答した。

さらに怖いのは、東京―名古屋―大阪という日本の大動脈輸送の二重系化の完成が遅れることだ。リニアが完成しないことには東海道新幹線は長期間にわたる部分運休を伴う大規模な改修工事は難しいし、リニアの完成前に大規模な大災害が発生して東海道新幹線が寸断されれば、JR東海の収入は激減する。最悪の場合、それが借り換え計画に影響を及ぼす可能性するある。JR東海としては、川勝知事の「手柄」であるリニア開業10年遅れの間に巨大災害が起きないことを祈るばかりであろう。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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