通勤型電車はなぜ、「似たもの同士」が増えた? 山手線となんとなく似ているあの電車

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鉄道車両標準化の試みは、過去にも行われている。老舗車両メーカーの日本車輛製造は、昭和30年代に、中小私鉄向け電車として「日車標準車体」を定め、メーカー主導の提案を各社に行い、実例もいくつか現れた。また同時期に、やはり中小私鉄向けの特急・急行用電車として、1955年に登場していた名鉄5000系電車に準じた車体を推奨。こちらも長野電鉄や富山地方鉄道などに採用例があった。

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名鉄5000系とほぼ同じ車体を採用した長野電鉄2000系(現在は引退)

しかしほどなく、中小私鉄はおしなべて経営状況が悪化。車両の調達は他社の中古車両の購入がほとんどとなり、その後の展開は見られなかった。一方、国鉄や大手私鉄は独自の仕様を持っていたことや、車両の開発・設計能力を社内で有していたことなどから、社内における標準化は推し進めても、会社の壁を越えての標準化にはあまり積極的ではなかった。

標準仕様ガイドラインの作成

ただ、トラック輸送が発達する以前は、かなりの数の私鉄が国鉄との間で貨車の直通運転を行っていたことから、見た目ではわかりにくいものの、国鉄に準じた仕様を一部に採用している会社は、今も多い。以前はある意味、国鉄との仕様共通化がすなわち標準化であった。

そうした傾向であったところへ、E231系と共通設計の電車が登場したことが、さらなる標準化へと向けて流れを変え、加速させたことは間違いない。「見た目も似た電車」への転換である。

もとよりE231系の仕様は、すべての鉄道会社に適しているわけではない。既存車と違いすぎてメンテナンス体制、設備が対応不可能といった事情から、ステンレス製の広幅車体など採用できない部分もある。また、地下鉄への乗り入れに対応するには、性能強化も必要であった。現に、東京メトロ東西線乗り入れ用に製造されたE231系800番代は車体寸法を変更し、編成内の電動車(モーターを装備している車両)の比率を上げて対応している。

こうしたことから、日本鉄道車輌工業会は2003年、「通勤・近郊電車の標準仕様ガイドライン」を定めたのである。これは大都市周辺の通勤型電車への適用を目的としたもの。E231系の設計を出発点としつつ、地下鉄乗り入れなどの使用目的を満たす性能となるよう、車体寸法や車内設備、機器類などについての共通仕様が決められており、これに準拠すれば設計・製造費用、保守費用の低減が見込まれる。

サービス力で差別化を競う時代に

もちろんこれは鉄道会社の自由な発注、メーカーの自由な受注を妨げるものではなく、採用不採用は各社の意向次第だ。一部の採用のみでも構わない。特に関西の大手私鉄各社においては、個性を重視する方針や、一度に製造する両数も比較的少ないことから、このガイドラインを採用した例は、南海8000系など、これまでわずかに留まっている。

しかし、首都圏ではガイドラインに沿った「標準車両」が主流となりつつある。主な採用例としては東急5050系などがある。それゆえ、E231系をルーツとした、「似た電車」が増えているのだ。

最近では、ホームドア設置の要請が高まっているため、同じ路線を走る電車の車体寸法(特に乗降扉の位置)の統一が要求されることも多い。「標準化」は時代の趨勢だ。各社はその中で、サービスアップを競うことになっているのである。

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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