「私は子育ても終わり、住宅ローンも残り少なかったので大丈夫でしたが、人によって事情は異なります。急に収入が半分になると困窮する人もいるでしょう。もっと緩やかな対応もあり得るのではないかと思いました」
1年ごとに「転勤」させられ、教育困難校へ赴任
再任用教員となって1カ月で、大きなギャップを体感した佐々木さん。しかし、まだ意欲は高かった。教員としての日々は定年前とほとんど変わらなかったからだ。
教職員は管理職を含めて年下となるので「面倒な存在だと思われていたかもしれない」と振り返るが、人間関係に問題は生じなかった。かつて、再任用となった先輩の教員が口やかましくして「老害」と呼ばれるのを目の当たりにした経験もあり、自身の振る舞いは気をつけていたのだろう。
このまま65歳まで勤務を続けられれば――そんな思いに冷や水をかけたのが、「異動」の辞令だった。再任用の任期は1年なので、正確には異動ではなく再任用2年目の打診であり、正当な提示ではある。事前のアンケートで「転勤は希望しない」と回答していた佐々木さんは戸惑ったが、結局受け入れざるを得なかった。
同じことが翌年も、その翌年も続いた。仕方なく受け入れたが、これでは学校や生徒の役に十分立てないのではないかという疑問が残り続けた。
「私は、教員という仕事は、その学校の体制や生徒の気質などに馴染んで初めて成り立つものだと考えています。現に、現役教員も一定の年数は同一校に勤務するのが原則です」
実際、小中高を問わず1年で教員が異動するケースは少ない。佐々木さんの勤務校がある自治体の場合、「同一校に5年以上」が原則だったようだ。
「生徒にはいろいろなタイプがいます。表面的にはわからなくても、その生徒にとって必要なことに気づいてこちらから提供しなければならない場合もあります。その塩梅を掴むのは、1年では難しいと思うのです」
こうした指摘は、おそらく管理側も理解しているだろう。ではなぜ1年ごとに「異動」させられたのか。「真相はわからない」と前置きしながら、佐々木さんは「低賃金の穴埋め要員として扱われていたように感じる」と明かす。
「実は、配置されたのはいずれもいわゆる『教育困難校』でした。勤務を希望する教員は残念ながら少ないので、人員確保に苦慮していたはずです」
増加する再任用教員をいかに有効活用するか
佐々木さんは、教育困難校に勤務した経験も持つ。再任用の5年間はそうした学校で力を発揮してほしい、と言われていれば、また印象も違っただろう。しかし、1年ごとに勤務先が変われば、その都度手探りで進めなくてはならない。場当たり的な人手不足の解消策として“便利使い”されていると感じれば、やはり意欲は削がれてしまう。
「再任用教員に担任を持たせない慣例にも、個人的には納得できませんでした。担任とそうでない教員とでは、どうしても生徒にしてあげられることが異なります。意欲を持つ教員は、やはり担任を持ちたいと思うはずですから、せめて担任を望むかどうか希望を聞いてほしいですね」