「事実無根の噂を平気で流す人」が許容される理由 他人の不祥事が面白おかしく語られることに快感

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しかも、お局社員は管理職には平身低頭で、ゴマすりも上手らしい。この会社では、管理職はほとんど男性で、若い頃からお局社員に優しい対応をされてきたので、彼女を高く買っている管理職も少なくないそうだ。独身のため自分で食べていかなければならないお局社員なりの保身術は功を奏しているわけで、とくに営業職の男性に甘いのも、営業が稼ぎ頭で花形という合理的な理由によるのだろう。

第一、お局社員は勤続年数が長く、仕事もできるため、どうしても周囲から頼りにされる。それほど大きな会社ではなく、離職者も後を絶たないので、経理に一番詳しいのがお局社員という状況では、結局わからないことがあるたびに彼女に尋ねるしかない。

お局社員の機嫌を損ねたら、教えてもらえないかもしれないと思えば、彼女の話を一応聞いておき、決して逆らうまいという心理になりやすい。だから、お局社員が気に入らない社員に対して大人げないふるまいを繰り返しても問題視されずにきたのも、彼女の流す噂を信じる社員が一定数いるのも無理からぬ話だ。

ただ、このような社内の反応は結果的にお局社員のふるまいを許容することになっている。その点で、この会社では社員の多くが知らず知らずのうちに「イネイブラー(enabler)」になっていると考えられる。

「イネイブラー」とは、依存症患者の周囲にいて、薬物やアルコールを購入するお金を与えたり、不始末の尻ぬぐいをしたりする人物を指す。結果的に悪癖を容認し、場合によっては助長してしまうことが少なくない。

この会社の社員の多くも、お局社員が流した根も葉もない噂を信じ、さらに拡散したという点では、彼女の悪癖を容認し、助長する「イネイブラー」になっている。その根底には、他人の不幸や不祥事が面白おかしく語られると、それに快感を覚えるという人間の残酷な一面が潜んでいるのではないか。

他人との比較でしか自分の幸福を実感できない人

他人の不幸にまつわる話に嬉々として飛びつき、面白がる人がいかに多いかということだ。「他人の不幸は蜜の味」という言葉はまさに真実だと痛感した。

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その心理を分析すると、何よりも大きいのは「あの人よりはマシ」と思えることだろう。他人との比較でしか自分の幸福を実感できない人ほど、他人の不幸や不祥事に飛びつくように見えるが、これは自分より“下”の人の話が喉から手が出るほどほしいからだろう。裏返せば、「あの人よりはマシ」と思える相手がいなければ心の平穏を保てないわけで、常にそういう対象を探し求めているともいえる。

こういう人はどこにでもいて、すぐに「イネイブラー」になる。そして、「イネイブラー」が多いほど、噂は簡単に広まる。しかも、その真偽など誰も気にせず、ただ面白ければいいという理由で拡散する。その結果、噂を言いふらされた人が心身に不調をきたしたり、出勤できなくなったりする事態を招くこともありうる。もっとも、そういう不幸をむしろ面白がって見ている人さえいる。

片田 珠美 精神科医

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かただ たまみ / Tamami Katada

広島県生まれ。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。京都大学博士(人間・環境学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。2003年度~2016年度、京都大学非常勤講師。臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。著書に『他人を攻撃せずにはいられない人』(PHP新書)、『賢く「言い返す」技術』(三笠書房)、『他人をコントロールせずにはいられない人』(朝日新書)など多数。

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