名取市の特別養護老人ホーム、地域密着の財産を元に「再建一番乗り」を目指す
反面、職員の雇用継続はプラスの効果も生み出している。「被災したお年寄りは、私たちが想像した以上に落ち着いて生活している。顔なじみの職員が寄り添うことで、震災前からのケアを継続できたからだと思う」と佐々木氏は指摘する。「両親や兄弟を亡くした職員も多く、同じ被災者としてお年寄りの境遇に深い共感を抱いている」(佐々木氏)。
診療所は住民の希望に応える形で日曜日午前中も開院。特養ホームでは多くの高齢者を看取ってきた。地域では信頼が厚かっただけに、利用希望者は多い。さらに震災後、これまで元気だった高齢者でも介護を必要とする人が急増しているという。
地域住民の希望をかなえるには早期の施設復興が必要だが、解決すべきいくつかの難題がある。1つは特養ホームの定員超過入所に対する規制だ。
受け入れ側の特養ホームは、ゆとりのある造りやサービス態勢だったため、「定員の1.5倍まで受け入れることが可能」(佐々木氏)。震災後は緊急策で定員70人に対して94人(6月14日現在)と、定員の1.34倍の人数を受け入れてきた。反面、利用者1人に対応する看護・介護職員数は、震災前よりも手厚くなっている。
にもかかわらず、特養ホームが立地する仙台市からは「1割程度の定員オーバーにとどめてほしい」と言われているという。定員オーバーの解消は、受け入れができない高齢者が出てしまうことも意味しているだけに悩ましい。
もう1つの難題が、要介護状態手前の高齢者が生活するケアハウスの再建問題だ。認知症グループホームについては、国が設けた「福祉仮設住宅」の制度を活用しての事業再開の道筋が見えつつある。これにより、新たに事業再開が可能になる。一方、ケアハウスについては、同じような制度がないことから、これまでの入居者を避難先の老健施設から移動させることが難しい。これでは老健施設が本来の役割を発揮できない。
こうした問題に直面しつつも、森氏が事業の再建に自信を見せるのは、これまでの健全経営で財務基盤がしっかりしていることに加えて、特養ホームの災害復旧では、国からの手厚い補助が見込まれるためだ。
「震災の教訓を生かし、防災機能を併せ持った建物を造る必要がある。医療と介護の連携をさらに強め、高齢者のニーズに合わせたアウトリーチ(直接出向く形)の体制も構築していきたい」と佐々木氏は語る。事業再建の行方が注目される。
(岡田 広行 =東洋経済オンライン)
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