イスラム暦「ラマダン月」が試練となるイスラエル 人質解放交渉は水面下で行われ、平和の時は戻るか

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3月にラマダン月を迎えるに当たり、再び休戦協定が結ばれ、人質が解放されるのではないかという期待が語られ始めた。ラマダン月はイスラム教徒にとって神聖なときであり、よりよい生き方をしようという思いがいつも以上に高まる期間とされているからである。

ラマダンとはイスラム暦の第9月の名称で、イスラム教徒はこの1カ月間、日中に断食をして過ごす。イスラム暦は太陰暦なので西暦より10日ほど短く、毎年ラマダン月はずれていく。2024年は3月10日(あるいは11日)~4月8日(あるいは9日)に当たる。

イスラム教の創始者ムハンマドがコーランの言葉を神に啓示されたのがラマダン月である。この月にイスラム教徒は「浄化と自制、共感」を育み、神に近づく時を持つ。

それで日の出から日没まで断食する。日没後にはイフタールと呼ばれるご馳走が振る舞われ、家族と多くの時間を過ごす。1年で最も大切な月とされている。

エルサレムに住んでいたとき、ラマダン月の夜に旧市街のアラブ人地区へ出かけたことがあった。辺りが肉を焼く美味しそうな香りで充満していた。

筆者はイスラム教徒ではないので口にしなかったが、イフタールは基本的に無料で振る舞われている。「ラマダン太り」という言葉があるらしい。日中に断食しているためか、いつもより多く食べてしまうのだそうだ。辛い断食の月というイメージが一変した。特別なデザートが用意され、子供たちも夜更かしをして楽しそうだった。

ラマダン月に人質解放交渉が進展?

そんなラマダン月を迎えるに当たり、人質解放の交渉が進展すると思われていた。けれどもそれは実現しそうにない。その理由について「イスラエルが停戦に応じないから」、あるいは「ハマスがイスラエルの求める人質の生存者リストを出さないから」などと報道されている。

交渉内容の詳細は極秘なので真相はわからない。しかし、イスラエルのラマダンには他の国と違う事情があることは知っておくべきだろう。

ラマダン月には数十万人のイスラム教徒がエルサレムのアルアクサ・モスクへ礼拝に来る。エルサレムのシンボルとなっている金のモスク(岩のドーム)の隣にあるのが、アルアクサである。

そこはユダヤ人が「ハル・ハバイト」(神殿の丘)と呼び、イスラム教徒が「ハラム・アッシャリーフ」(高貴な聖所)と呼ぶエリアである(ここでは「神域」で統一する)。ヨルダンが維持管理を行ない、イスラエルが警備を担っている。

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