スシロー、なか卯、ファミマ相手の「非正規春闘」 昨年はABCマートに「1人ストで5000人の賃上げ」

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──少人数で賃上げを要求して不利益を被ることはないのですか。

要求に正当性があって世の中で注目されている時には、会社側もそう簡単に手を出せません。また、職場で重要な役割を担っている人が要求することが多いのも理由です。

そうした人は経験年数を重ねて熟練し、新人の2~3倍の業務をこなしながら現場でイレギュラーな事態にも対応して責任を負っている。それなのに賃金は最低賃金とほとんど変わらない。そういう人を攻撃すれば、ほかの従業員も辞めてしまいかねません。

インフレだけを理由に非正規春闘に加わる人は、実はそれほど多くありません。賃金が仕事に見合っていないことを不当だと感じているところに、インフレが拍車をかけたのです。

──人手不足の中、より賃金の高い職場に移る手もあるのでは。

もちろん転職している人はたくさんいます。労働組合に入って賃上げを求める人数より多いでしょう。でも、その力は全体の賃上げにつながっていません。むしろ問うべきは「人手不足なのになぜ賃金は上がらないのか」でしょう。

人手不足だけでは賃上げにつながらない

経営者が自ら賃上げを決断することはなかなかない。賃金を上げれば人が集まりますが、賃金はコストです。

とくに非正規雇用が多いのは、コストに占める人件費率の高いサービス業で、賃上げはダイレクトに経営に響きます。大抵は他社も上げるので人を集める効果が続かず、コストが増えただけとなります。

非正規春闘
2024年2月、経団連前で賃上げを訴えた(青木氏提供)

だから今、サービス業では人手不足の影響を現場にシワ寄せしています。「働く人間は何とか現場を回そうとするものだ」と経営者はわかっています。

賃上げを要求され、上げなければまずいとなって初めて踏み切る。1社が上げると、ほかも上げざるをえません。1つの賃上げが業界や地域で波及する。春闘ってそういうものだと思います。

労働組合が要求しなければ、需給が均衡するように価格(賃金)が調整されるという市場メカニズムも働かないのです。

黒崎 亜弓 東洋経済 記者

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くろさき あゆみ / Ayumi Kurosaki

特に関心のあるテーマは分配と再分配、貨幣、経済史。趣味は鉄道の旅、本屋や図書館にゆくこと。1978年生まれ。共同通信記者(福岡・佐賀・徳島)、『週刊エコノミスト』編集者、フリーランスを経て2023年に現職。静岡のお茶屋の娘なのに最近はコーヒーばかり。

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