テスラ買収も浮上、「アップルEV開発」コケた背景 10年間でスター幹部が次々と率いたが…
同社はイーロン・マスクとテスラ買収について何度か話し合いを持ったと、この話し合いに詳しい2人の関係者が語っている。しかし最終的には、他の事業を買収して統合するよりも、自社で自動車を製造するほうが理にかなっていると判断した。
マスクはこの記事へのコメントの要請に応じなかった。
人材確保へ「惜しみない」出費
プロジェクトは発足当初から、あるべき姿についての見解の相違に悩まされていたと、プロジェクトに詳しい人たちは語る。プロジェクトを率いたスティーブ・ザデスキーは、テスラと競合するEVを作りたいと考えていた。アップルの最高デザイン責任者であるジョニー・アイブは、自動運転車の開発を望んでいた。
当時1550億ドルのキャッシュを手にしていたアップルは、AI技術の一種である機械学習の経験者や、自動運転車の製造に不可欠なその他の能力を持つ人材を数百人雇うために、惜しみない出費をした。多くの人材が流入したことで、このプロジェクトはアップルにとって、社風に馴染みのない多くの部外者とともに開発した初めてのプロジェクトとなった。
士気と指導力を高めるために、アイブやMacのエンジニアリング責任者であるボブ・マンスフィールドのようなスター幹部が参加した。さらに、複数の新興企業を買収し、自動車チームに参加させた。2021年、プロジェクトを成功に導くため、アップルはApple Watchを開発したケビン・リンチを車の責任者に据えた。
アイブと彼のデザイナーチームは、フィアット・ムルティプラ600のようなヨーロッパのミニバンのような車のコンセプトを描いた。ハンドルはなく、アップルのバーチャルアシスタント、Siriを使って操作する。
2015年秋のある日、アイブとクックはカリフォルニア州サニーベールにあるプロジェクト本社で、この車がどのように機能するかのデモンストレーションを行うために会った。2人はキャビンのような室内のシートに腰を下ろした。