嘘のような本当の話であるが、職人たちは「湿度は土に水を垂らしたときの水の広がりで計っている」「メートル法ではなく尺寸で仕事をしている」など、伝える側と伝えられる側の世代間でのギャップもかなり大きい。
度量衡(どりょうこう)が違うと、それはもう異国の言葉に等しくなってくる。
企業であれば、各部や課で新人の教育係が任命されたり、メンター制度や人事部などの第三者がコミュニケーションを助けたりしてくれるが、分業制の下での1対1の伝承となると、なかなかそうはいかない。
もちろん、各織元では、上記のような課題を乗り越えながら技術の伝承を少しずつ進めているのだが、「後継者育成」への実情は「想像以上に高いハードル」なのである。
「これまで消えてしまった日本の文化遺産は多くある」
「これまで消えてしまった日本の文化遺産は多くある。我々の織元だけでなく、京都、そして日本の染織物を次世代に残していきたい」と源兵衛氏は語る。
これは織物産業に限らず、そして日本に限らず、世界中の伝統工芸が、近代化や大量生産・消費文化の下で、その「伝承」に非常に苦しんでいるのだ。
「経糸を切らさず」。この織物から生まれた慣用句を、伝統的な西陣織が体現していくために何をすべきかは、改めて別の記事で紹介していきたい。
また、このような文化・伝統を守るにあたっては、伝統産業だけでなく、政府や日本人全体の意識も大切であろう。
我々は、日本の文化・伝統自体に価値があることを、認識できているのだろうか。そしてその「伝承」に危機感を持っているのだろうか。
2023年3月に京都に移転した文化庁のホームページの紹介には、「文化を守り 文化で未来をつくる 世界とつながる 文化庁は、日本の文化芸術を世界に、そして次の世代へと伝えていく仕事をしています」とある。
文化や伝統を守ることは国の義務であるし、その活動を支えるのは国民の文化・伝統に対するリテラシーにほかならない。
個々人の文化や伝統に対するリテラシーの高さとは、社会の豊かさそのものなのだと感じる。
*この記事の1回目:世界が憧れる京都「西陣織」はエルメスになれるか
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