電力会社8社と東京ガスを格下げ、格下げ方向での見直しを継続《ムーディーズの業界分析》
一方で、J-POWERと沖縄電力、大阪ガス、東京ガスはこのような原子力発電関連の問題からは影響をあまり受けていない。しかしながら、J-POWERは同社初となる大間原子力発電所(青森県)を2014年に完成させる予定だったが、現在、その建設を一時休止しており、原子力発電に関する事態の進展によってはネガティブな影響を受ける可能性がある。
電力会社と比較したガス会社の格付けは、相対的には事業リスクが低く、また、より強固な財務プロファイルや高い流動性を有していることを考慮したものである。大阪ガスと東京ガスの財務プロファイルの格差は縮小してきていることから、2社の格付けは同水準となった。また、今回の格付けアクションは、電力会社の中でも、原子力のエクスポージャーが相対的に小さい2社をより高い格付け水準とするよう、電力会社間の事業リスクの違いも反映している。
以下に記載のとおり、原子力リスクを有する電力会社に対しては、さらに下方圧力がかかる可能性も残っている。
中部電力は、大規模な地震と津波の可能性が高いことから、5月6日に行われた菅直人首相からの要請に基づき、浜岡原子力発電所(静岡県)でのすべての原子炉を停止した。
また、定期検査のために停止している原子力発電所の再開が遅延することになれば、原子力発電への依存が高い関西電力や九州電力等の電力会社において、電力の供給力不足を引き起こすことにつながる可能性があろう。
過去数カ月で、原子力発電所を保有する国内電力会社の事業リスクは大きく高まった、とムーディーズは考えている。
さらに、福島第一における事故に関連した原子力損害賠償支援機構法案では、すべての原子力事業者は原子力損害に関する支払いに充てられる負担金を、新たに設置される機構に拠出することとなっている。
この支援機構法は、6月中旬に閣議決定され国会に提出された。法案に基づいて、原子力事業者のための相互扶助的な機構が設置され、負担金の拠出が求められると、原子力を有する電力会社のコスト増につながり、料金を値上げする必要に迫られるであろう。さらに、この負担金額と支払い時期はいまだ不透明であり、多額になる可能性もある。