民営化の布石?台湾鉄道「国営企業化」の大改革 蔡政権「最後の実績」、組織は変わるが実態同じ?
しかし、この改革案は鉄路公会(労働組合)の大きな反対を受けた。2003年2月、国営企業化や将来的な民営化後の雇用に疑念を抱いた台鉄の従業員約2000人が台北駅で陳情を行ったのだ。さらに、開業を控えた台湾高速鉄道の台北駅乗り入れのために在来線の線路やホームの一部を高速鉄道に引き渡すことを決めていた政府への反感も強く、それらの声も重なって民営化の期限は白紙状態となった。
その後も民営化への反対は強く、2004年春節期間のストライキなどを受け、鉄道改革は組織内の改革を中心とした消極的なものとなり、その後2回の政権交代がありながらも、議論は置き去りとなっていた。
相次ぐ事故で改革が課題に
そんな姿勢を見直すきっかけとなったのが、2018年と2021年に相次いで発生した組織管理、安全意識の欠如による不祥事だ。2018年10月21日に発生した「プユマ号」の脱線事故を受け、当局は「台鉄総点検」として組織内部の問題点の洗い出しと改善を実施したが、そのさなかの2021年4月2日に「太魯閣号」の脱線事故が発生。2つの事故で合計67人が犠牲となる事態に、台鉄の改革は蔡英文政権下で一大課題となった。
太魯閣号の事故から5日後には、蔡総統が台鉄の組織文化の一新、収益性の改善、持続的な経営を軸とした国営企業化への改革を打ち出した。同年5月4日にはその草案が日本の内閣に相当する行政院に提出され、スピード感のある動きを見せた。
しかし、行政院からは労働組合と改革案について検討するよう突き返され、安全や雇用に不安を持つ労働組合の反発に再び向き合うこととなる。その調整は難航し、労組はメーデーの2022年5月1日、休暇の権利を引き合いに台鉄史上2回目となるストライキを決行。日曜日にもかかわらず在来線はわずか18本を除いて全線運休し、バスで全国的な代替輸送を行うという異常事態に陥った。
だが、その後は一定の進展が見られ、2022年5月27日には法案が日本の国会にあたる立法院を通過。2023年1月13日には、蔡政権の任期満了に伴う総統選直前となる2024年1月1日の国営企業化が決まった。
将来的な完全民営化を目指しているものの、今回行われたのはあくまで国営企業化だ。株主も旧組織を管轄していた交通部で、代表にあたる董事長は2020年より前体制での局長を務めてきた杜微氏。業務を統括する総経理も、各市政府の交通局や副局長を担当してきた馮輝昇氏と変化に乏しく、日本の国鉄民営化のように会社が分割されたわけでも、ロゴが変わったわけでもない。そんな様子にネット上では「企業化すれば何でも解決する」といった皮肉めいた声や、「結局、お役所仕事には変わらないだろう」などと落胆の声も聞こえる。
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