民営化の布石?台湾鉄道「国営企業化」の大改革 蔡政権「最後の実績」、組織は変わるが実態同じ?

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実際、国営企業化直前に董事長を引き継いだ鉄路局長が1年目に値上げを行いたいと語ったすぐ翌日に、台鉄側は値上げの計画を真っ向から否定するなど、意見のもみ消しあいが続いている。企業化した以上は将来的な民営化を目指した身を切った改革や、政治家の利権を伴わない政府とのスムーズな取り決めが求められる。

しかし、公共意識の強い台湾の在来線で大幅な値上げを行うことは考えにくい。実際、台湾高速鉄道も2015年に財務状況の悪化からそれまで完全な民間出資だったものを減資し、60%を交通部の出資としたうえで破綻を回避し、同時に値下げを行った経緯がある。そこで大きなカギを握るのが資産の分配だ。

台湾では以前から、日本の鉄道営業法にあたる「鉄路法」や国有財産に関連する法律で、台鉄など公的機関が本業以外で利益を得る目的での国有地活用には大きな制限がかけられてきた。台鉄では大規模な駅を中心に土地活用を行ってはきたものの、各地の都市計画と歩調を合わせたスピード感のない開発、または敷地を民間事業者に改修・管理させるROT(Rehabilitate-Operate-Transfer)といった間接的な手法でしか行えず、不動産仲介のような立ち位置で、主体的な開発が阻まれてきたのだ。

しかし、今回の改革に伴う法改正に伴い、台鉄が300ヘクタールに及ぶ開発可能な敷地の柔軟な活用を行えるとともに、交通部の保有する国有地などの管理もできるようになり、その収入も自身で運用可能となったのだ。

台鉄は「稼げる鉄道」になれるか

今まで台湾鉄路の副業は駅弁の販売や小規模なテナントからの収入にすぎず、その割合は全体の収益の23%に満たなかったが、今後は駅周辺の自主的な再開発やホテル業といった異業種への参入などで40%超えを目指すとともに、減債基金や鉄道サービスへの還元に充てるとしている。

台鉄 駅弁の看板
企業化によりこれまでの駅弁やグッズ販売以外の副業展開も探る(筆者撮影)

現地報道では都市部の遊休地の価値は300億元(約1436億円)を超えると査定されており、日本のような鉄道駅を中心とした都市開発が活性化するのも夢ではないかもしれない。

2023年度 収入の割合(台鉄会社案内参照)
旅客収入:75% 総収入50.26億元(約240億円)
貨物収入:2%
不動産収入:19%(→40%への拡大を目指す)
副業収入:4%

実際、台鉄には採算の取れない駅はあれど不採算路線は少ない。沿線の人口密度の高い西部幹線は通勤と都市間移動路線を兼ね、鉄道が有利な東部幹線は島内のライフラインとして、支線は観光路線として機能している。このようにポテンシャルの高い環境にある中で、いかに高速鉄道やMRT(都市鉄道)に引けを取らない安定したサービスを提供し、利便性を向上できるかが課題だろう。台湾に鉄道が開通し137年目、次の10年を「黄金の10年」にすると意気込む台鉄は「稼げる鉄道」へと変貌を遂げることができるだろうか。

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小井関 遼太郎 東アジアライター

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こいぜき りょうたろう / Ryotaro Koizeki

台湾北部在住。観光や都市政策を中心に研究を進めている他、台湾のガイド資格などを保有しており現地事情に精通。台湾から見た東アジア情勢を中心に発信している。
E-mail : ryo120106@gmail.com
Facebook: https://www.facebook.com/ryotaro0106/
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