「過疎ビジネス」にすがった福島・国見町の過ち コンサル丸投げ自治体が陥ったガバナンス不全

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地方自治総合研究所(東京)が2017年に全国の1741市町村を対象に行った調査では、回答を得た1342自治体のうち実に77.3%が地方版総合戦略の策定をコンサルタントに委託していた。外部委託に使える交付金を国がわざわざ用意したことも「外注」を助長した一因とみられる。

地方創生の取り組みで他自治体が先行すれば「うちはやらなくていいのか」と焦り、安易に追随する。補助金や交付金の獲得が目的化し、成功事例の引き回しや民意に添わない施策が横行する。

 2016年に始まった企業版ふるさと納税は、内閣府の地方創生推進事務局が所管する制度だ。国見町の救急車事業も、元はと言えば地方創生の一環だった。

 ワンテーブルは国の制度を巧みに利用して「過疎ビジネス」を仕掛けた。どんなに小さな自治体でも、年間の予算は国からの交付金や補助金で数十億円規模になるからだ。

 施策のアウトソーシングを持ちかけ、公金を吸い上げる。大きな自治体は避け、国見町のような手なずけやすい小さな自治体を狙い打ちにした。国見町は自分たちで地域の課題解決を考えることを放棄し、ワンテーブルに全てを丸投げした。

自治体DXはコンサル千載一遇のチャンス

同様の事例は、形を変えて各地で起きる可能性がある。政府は2021年、地方創生に抱き合わせる形で「デジタル田園都市国家構想」を打ち出し、各種の交付金や補助金のメニューを用意した。自治体DXの大潮流が起きた。行政のデジタル化は時代の要請だが、協力する企業は最大利益を合理的に求めるのが常だ。

2022年度の全国の企業版ふるさと納税の寄付総額は2021年度比で1.5倍増の約341億円。寄付件数は1.7倍の約8400件で、いずれも2016年の制度開始以降で最も多かった。国の2023年度当初予算はデジタル田園都市国家構想関係に4兆2000億円を計上、うち地方創生にひも付けられる交付金は1800億円に上る。

地方創生や自治体DXを手がけるコンサルやIT企業にとっては千載一遇のチャンスだ。ノウハウの乏しい自治体は、豊富なデータや知見を持つ民間の力を必要としている。

官民連携を一概に否定するつもりはない。だが、地方創生もデジタルも地域発展の手段であって、それ自体が目的ではない。そして、公金を原資に使う以上は何をするにも確かな民意の裏付けがなければならない。私たちの公金は、一企業が営利のために好き勝手に使っていい代物ではない。

主体性なき自治体の官民連携には、いずれ大きな落とし穴が待ち受ける。持続可能な地域社会の実現には、住民一人一人が自治の主体として権利と責任を意識し、意思決定に関わる不断の努力が欠かせない。

人口減少時代の「限界役場」に巣くう過疎ビジネス。誰もが地域課題に無関心な「お任せ民主主義」が続くようでは、先行きは危うい。

横山勲 『河北新報』記者

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よこやま つとむ

1988年生まれ。2013年、河北新報社入社。本社報道部、盛岡総局などを経て、2021年から福島総局記者。

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