治療1回に水120L必要「透析患者」襲う断水の怖さ 「水は電気とともに医療機関の生命線」と関係者

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実際、災害があるごとに、医療機関は透析患者の対応に追われる。

2011年3月11日の東日本大震災では、透析患者が被災地から大型バスに分乗して他都道府県に移動した。2016年4月の熊本地震でも同様で、被災した病院が透析患者の受け入れ可能施設を探した。

「災害が透析患者にもたらす悪影響は、水の問題にとどまらない」と、つくばセントラル病院(茨城県牛久市)を運営する社会医療法人若竹会理事長で腎臓内科医の金子洋子氏は言う。

腎臓内科医の金子洋子氏
常総水害時に透析患者を受け入れたつくばセントラル病院の金子理事長(写真:筆者撮影)

例えば、血液透析では前述したように医療機関に週3回通い、1日あたり約4時間の治療を受ける必要がある。通院するための交通手段が絶たれれば、透析治療を受けられない。停電も同様で、透析の装置は多くの電力を必要とするため、予備電源や適切な発電装置だけでは、十分に治療を受けることはできない。

つくばセントラル病院も被災した病院の透析患者を受け入れたことある。2015年9月、関東・東北豪雨により鬼怒川の堤防が決壊する常総水害が起きた。茨城県常総市では避難者数が1800人近くにおよんだ。

このときは、同院は1階部分が水没した災害地域の病院から透析患者を受け入れた。災害派遣医療チーム(DMAT)が病院2階からボートで救出し、搬送したケースもあり、搬送は夜中まで続いた。

透析患者の避難所生活は難しい

避難所で生活を送ることも、透析患者では難しい。

まず、透析患者は免疫力が弱く、血管ももろくなっている。そのためインフルエンザや新型コロナなどの感染症や、エコノミークラス症候群などのリスクがある避難所での生活は、かなり厳しい。

また、透析を受けている人は食事の内容にも制限があるので、避難所で提供された食事をそのまま摂ることもできない。

コロナ禍では、「行動制限が運動不足につながり、長期に寝込んでしまって自立生活の指標となる日常生活動作(ADL)が低下したことなどにより、誤嚥性肺炎で亡くなる方も増えた」と金子氏は指摘する。

実際、先の日本透析医学会の報告書によると、コロナ禍の2022年の透析患者の死亡者数は3万8464人だった。これまで死亡原因は心不全がトップだったが、2022年は感染症が22.6%となり、21.0%の心不全を越えた。

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