"後継者"ニケシュを口説いた孫正義の招聘力 ソフトバンクに超一流が集まるワケ

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現在のソフトバンクは、笠井氏抜きでは成り立たなかっただろう。残念なことに笠井氏は2013年に亡くなられた。このときには、孫正義は目に涙をためながら弔辞を読んだ。このように孫正義は、自身が必要としている人物を適切なタイミングでリクルートしてきたのだ。

孫正義流、失敗しないリクルーティングの3つのポイント

孫正義のリクルートには、いくつかの法則がある。

ひとつ目は、社外にいて、孫正義のカウンターパートナーとして働いて実績を上げた人物を選ぶということだ。北尾氏は、1994年、ソフトバンクが新規株式公開(IPO)を行った際、主幹事証券だった野村證券のソフトバンクの担当部長だった。また、笠井氏と孫正義は、笠井氏がまだ銀行に勤めていたときにビジネス上の密接な関係があった。つまり相手はソフトバンクと孫正義についてかなり知っていて、孫正義も相手のことをよく知っている状態ということだ。

ニケシュ・アローラと孫正義の最初のコンタクトは、5年ほど前のことらしい。Yahoo! JapanにGoogle社製の検索エンジンを導入するためだった。この交渉は、言わば競合企業同士がある分野で提携するという、難しい交渉だった。しかし、最終的には孫正義とニケシュは合意し、Yahoo! Japanの検索エンジンはGoogle社製を導入することになった。この交渉を通じて孫正義は、ニケシュのビジネスマンとしての知見や能力を知ったのだろう。ニケシュのソフトバンク入りはこのような関係があってのことだ。

トップレベル人事で採用してみて駄目だったということは、許されることではない。数百億、数千億の単位で実績に差が出てくる。やはりその能力に確信が持てる人物でなければ、ハンドルを預けるわけにはいかないということだ。

2つ目は、孫正義自身が直接口説くということだ。まずは、ヘッドハンターが社名も出さずにコンタクトして、見込みが出てきたら自分自身で口説くというような段階的アプローチはとらない。孫正義自身が自分で電話をして、何度も直接会って口説く。ニケシュ・アローラに至っては、彼が結婚式のため南イタリアにいるときに孫正義が電話をしてきて、最終的には結婚式にも出席したという。

3つ目は大きな志を共有するということだ。ニケシュ・アローラは決算発表会でソフトバンク入りの理由を聞かれて、「成長力のあるアジアで仕事をするならソフトバンクだと思った」と答えている。日本でYahoo! Japan、中国ではアリババを有するソフトバンクに、インド生まれのニケシュ・アローラが入ることで実現する未来のソフトバンクが、2人の共有する志となったのだろう。それでニケシュ・アローラはソフトバンク入りを決めたのだ。

ソフトバンク躍進を支える人材リクルーティング

ほかの企業と比べ、ソフトバンクという企業には成長の限界がないように見える。これは、孫正義が成長のために必要な人材を、抜群の交渉力で巻き込んできたからだ。そして、それは単に採用面接での口説き文句がうまいというようなことではない。社外であっても、孫正義と一緒に仕事をし、お互いに理解を深めていく過程を経て、いつの間にか孫正義と志を共有し、自然とソフトバンクに引き寄せられていくのだ。

私は前回、「孫正義はいかにしてジョブズを口説いたか?」という記事の中で、孫正義が、自然と交渉相手が寄り添ってくるような状態を作り出す“鯉とりまーしゃん”式の交渉術を駆使していると書いたが、まさにこうしたリクルーティングは、その真骨頂と言えるだろう。

三木 雄信 トライオン代表取締役

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みき たけのぶ / Takenobu Miki

1年で"使える英語"をマスターする「One Year English プログラム」"TORAIZ"を運営するラーニングテクノロジー企業 トライオン株式会社代表取締役。1972年、福岡生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱地所を経てソフトバンクに入社。元ソフトバンク社長室長。マイクロソフトとのジョイントベンチャーや、ナスダック・ジャパン、日本債券信用銀行買収、およびソフトバンクの通信事業参入のベースとなったブロードバンド事業のプロジェクトマネジャーを務める。現在は、東証一部やマザーズ公開企業のほか未公開企業の社外取締役・監査役などを多数兼任。プロジェクトマネジメントや資料作成、英語活用などビジネスコミュニケーション力向上を通して、企業の成長を支援している。著書に『海外経験ゼロでも仕事が忙しくても英語は1年でマスターできる』『世界のトップを10秒で納得させる資料の法則』などがある。

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