一方、クラウド市場ではOpenAIとの提携が大きな成果を生み出している。マイクロソフト・アジュールなどクラウド事業の売り上げは2023年第3四半期に243億ドル(約3兆5000億円)と、前年同期比で29%も増加。急成長の背景には、多くの企業ユーザーが生成AIを導入する際、間接的にアジュールなどのクラウド・サービスを利用していることがある。
生成AI「Copilot」を組み込んだクラウド型のオフィス・アプリ「マイクロソフト365」が今後、どの程度売り上げを伸ばすかはもう少し様子を見ないとわからないが、こちらも同社のクラウド事業の収益拡大につながるはずだ。
こう見てくると、生成AIを中心に生まれ変わろうとしているIT産業において、マイクロソフトは好位置につけていると言えそうだ。
主力事業の戦略見直しを迫られるグーグル
2023年のChatGPTを嚆矢とする生成AIブームにおいてグーグルは明らかに出遅れた。
本来、生成AIのベースにある「トランスフォーマー」と呼ばれる技術はグーグルの研究者が発案したものであるだけに、同社の出遅れはいわゆる「イノベーターのジレンマ」の典型と見られた。グーグルは「検索エンジン」という1990年代の画期的技術に執着したが故に、「生成AI」という2020年代のさらに革命的な技術には消極的になってしまった。
生成AIはときに誤った情報や人種・性的偏見、さらには「幻覚」と呼ばれる捏造情報などを返してくる。これがスンダー・ピチャイCEOをはじめグーグル経営陣が生成AIの事業化を躊躇した主な理由とされる。これら生成AIの諸問題が長年培われた同社の信用やブランド・イメージを傷つけることを危惧したのだ。
しかし先行するChatGPTの勢いが止まらないことを確かめたグーグルは、徐々にではあるが生成AIの開発・商品化を加速させていった。ChatGPTに対抗するチャットボット「Bard」のリリースを手始めに、今年夏場からは主力の検索エンジンにもPaLMなど自社製LLMによる対話型AIの機能を組み入れている。
その如何によらず、検索エンジン市場でグーグルの地位が揺らぐことは当面なさそうだが、その「検索」という市場自体が生成AIに侵食されてしまう危険性はある。これについて最近、アメリカのIT関係者は「AIがインターネットを食べる(AI eats the Internet)」という表現を使うことがある。
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