銀座の旗艦店にみる「グランドセイコー」の現在地 スイスブランドの高級時計店と同じ区画に出店

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「日本では、グランドセイコーはクオリティの高い時計として理解されていた。しかしアメリカだと、『同じSEIKOなのになぜ価格が20倍ほども違うのか』という話になってしまう。つまりブランドとして認知されていなかった」(柴﨑氏)

セイコーは1969年にクオーツ式腕時計を発表。この発明が安くて正確な腕時計の普及に貢献したこともあり、普及価格帯の時計メーカーとして世界的に認知された。柴﨑氏のいう「SEIKO」はこのイメージだ。

そこで機械式時計を中心とし、価格も高いグランドセイコーを別ブランド化。商品の流通も分けた。

別ブランド化から6年。セイコーの挑戦は目に見えて成果を上げ始めた。

アメリカではファンによるSNS上での自発的な発信が増えた。ブランドと流通を分けたことで、グランドセイコーの魅力をSEIKOとの比較ではなくスイスブランドの高級時計との比較で語るファンが現れ始めた。

例えば、独自のムーブメント(駆動装置)であるスプリングドライブ。ゼンマイを動力とする機械式時計の動きを、水晶振動子とICで制御する仕組みになっている。制御にはゼンマイがほどける力で発電した電力を使用。クオーツの知見が深いセイコーならではの発明だ。

こだわりのものづくりが理解される

水晶振動子とICによる制御を加えることで正確な時刻が刻める。機械式時計でありながら時刻が正確な点が、若者を中心に支持を得た。ICによる制御が可能にした、なめらかな秒針の動きも魅力として受け止められた。

ファンによる発信を通じて、グランドセイコーのこだわり抜いたものづくりが広く理解され、ブランド価値として認知されるようになった。アメリカでの評判はほかの地域にも伝播した。

コロナ禍で旅行や外食などへの支出が抑制される中、時計など高級品消費への注目が高まったことも、振り返れば追い風だった。

グランドセイコー
価格に見合った価値が認められた(撮影:梅谷秀司)

スマートフォンやスマートウォッチが普及し、時計は単に時刻を確認する道具ではなく、情緒的な価値が求められるものになった。普及価格帯を中心に腕時計の販売が減少する中、セイコーはグランドセイコーのブランド戦略を見直し、高価格帯の販売に本腰を入れた。

スイス勢が強い時計に限らず、高級品市場は歴史的に欧州ブランドが中心となって作り上げてきた。日本的な美意識や真面目なものづくりはブランド価値としてどのように評価されうるのか。イメージが重要になる高級ブランドを、極東の日本で作り上げるのはまさに挑戦となる。

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吉野 月華 東洋経済 記者

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よしの・つきか / Tsukika Yoshino

精密業界を担当。大学では地理学を専攻し、微地形について研究。大学院ではミャンマーに留学し、土地収用について研究。広島出身のさそり座。夕陽と星空が好き。

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