OpenAI内紛の火種「AIの倫理と危険性」の正体 取り沙汰される「効果的利他主義」という考え方

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だが現在、OpenAIは、開発した生成AIをオープンなものとしていない。開発にはマイクロソフトの強力なサーバー資産を必要とすること、オープンな開発自体が、無責任な第三者による意図しない「AIの悪用」を招く可能性もあるからだ。

アルトマン氏の解任劇では、当時OpenAIのCSO(最高科学責任者)だったイリヤ・サツケバー氏との衝突があったと言われている。そして、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事など複数のメディアで、その衝突の背景には「EA支持者の考えるAIに対する懸念」があったと伝えられている。

サツケバー氏は今年7月から、OpenAI内で「スーパーアライメント」と呼ばれるチームを率いていた。これは、人間を超える能力を持つAIをどう監視すべきかを考える部隊であり、彼の懸念を示しているものでもある。

EAの思想性をどう考えるか、ここでは踏み込まない。ただアルトマンCEOはEAには否定的な立場であり、「ルールのもとに開発を加速し、その先を見る」という考え方を持っていた。そこである種保守的な立場であるEA支持者との間で軋轢が起きた……というのは、話としては筋が通る。

OpenAIは12月14日、AIの監視・解釈可能性など、安全性に関わるシステムに関する技術研究に、1000万ドルの助成金を出すと発表した。「スーパーアライメント」開発チームとともに、この基金は管理されていく。

チームは当面サツケバー氏がそのまま率いるとされており、社内の対立は少なくとも外見状、一段落したのだろうと思われる。

AIでも「オープン対クローズド」の対立

一方、AI開発のオープン性をどう考えるかは重要な課題である。

OpenAIのようにルールを守りながらもクローズドかつ大規模な体制で開発するのがいいのか、それとも、オープンな開発体制で「可視化」を重視するのがいいのか。

オープンなAI開発に向け、MetaやIBM、ソニーなどが団体を設立(画像:AIアライアンス公式サイトより)

MetaやIBM、ソニーなど50社以上が集まり、12月6日には「AIアライアンス」が発足した。この業界団体は、あくまでオープン・イノベーションによる責任あるAI開発を目指すもの。Metaが音頭を取っていることもあり、クローズドなOpenAIやグーグルの対抗、という意味合いもありそうだ。

ただ、過去の歴史を見ると、クローズドな体制とオープンな体制は併存しており、これまでは、オープンな体制がクローズドなやり方を呑み込む形で進んできた。

同じことがAIでも起きるかどうか、今結論を出すことは難しいが、「AIの開発をどう進めるか」「開発に伴う倫理性をどう考えるか」という意味では、注目しておくべき流れではある。

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西田 宗千佳 フリージャーナリスト

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にしだ むねちか / Munechika Nishida

得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、『アエラ』『週刊朝日』『週刊現代』『週刊東洋経済』『プレジデント』朝日新聞デジタル、AV WatchASCIIi.jpなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。著書に『ソニーとアップル』(朝日新聞出版)、『漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち』(講談社)、『スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場』(アスキー新書)、『形なきモノを売る時代 タブレット・スマートフォンが変える勝ち組、負け組 』『電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』(すべてエンターブレイン)、『リアルタイムレポート・デジタル教科書のゆくえ』(TAC出版)、『知らないとヤバイ! クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?』(共著、徳間書店)、『災害時 ケータイ&ネット活用BOOK 「つながらない!」とき、どうするか?』(共著、朝日新聞出版)などがある。

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