《日本激震!私の提言》財政運営全体を考える中で復興財源の議論をすべき--岩本康志・東京大学大学院教授


 政府案では、賠償資金の負担は将来の東京電力の利用者が負うことになる。これは、規制された市場の下で東電が値上げをするから支払える、という前提に立っている。一方、電力自由化はすでに進んでおり、大口需要家はほかの発電業者を選べるので、そこに高い料金は求めにくい。すると、選択の余地のない家計を中心とした、小口需要家が負担することになるだろう。

このスキームでは電力自由化を進めることができず、むしろ規制がより強まることが望ましくなってしまう。逆に、自由化を進めるなら、この賠償スキームは崩壊し、東電は立ち行かなくなり、政府から東電への融資はいずれ国民負担となる。

政府案では100%減資しないというが、既存の株主を保護する理由はないし、所有者が国なのか既存の株主なのかが明確ではなくなり、経営も不安定になる。

ほかの電力会社に負担を求めるというのも筋が通らない。そのうえ、これだけの事故を起こしても会社がそのまま存続するなら、ほかの電力会社でも、モラルハザードが起こる。

--望ましいスキームはどのようなものか。

第一に、現行のルールで対応し、本来救済されるはずのない利害関係者の救済を避けること。ただし、会社が存続しないと賠償金の支払いは続けられないし、電力供給を止めるわけにはいかないので、100%減資まで行くなら、政府が一時国有化する。第二に、賠償が終わった後の電力市場の活力を損なわないことだ。もしも賠償金の支払いによって、債務超過になるならば、そこで債務調整を行った後、新しい民間会社として再出発すればいい。

いわもと・やすし
1961年生まれ。84年京都大学経済学部卒業、大阪大学経済学博士。京都大学助教授、一橋大学教授を経て2005年から現職。財政制度等審議会財政制度分科会専門委員、統計委員会国民経済計算部会専門委員など歴任。近著に『マクロ経済学』(共著、有斐閣)。

(週刊東洋経済2011年5月21日号掲載 記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

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