1人の天才が「Amazon」を思いついた思考の裏側 ビジネスやイノベーションの「発端」は意外と凡庸

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数カ月かけていろいろなアイデアを出し、それぞれの実現可能性を検証した。1つめのアイデアは、広告を収益源とする無料の電子メールサービスだった。次に、インターネットで株式を売買できるサービスを検討した。

だが、どちらのアイデアにも、リスクを取って起業するほどの確信が持てなかった。

最終的に、とくに頭に残ったものが1つあった。インターネットを通じて消費者に直接商品を販売する、というアイデアだ。

彼が考えた重要なサブ課題

これを実現するためには、インターネット上に中心的な市場を築き、多様な企業と消費者をつなぐ仲介者になる方法を考える必要がある。

ベゾスにはイノベーションの課題を選ぶ際のカギとなる、野心的なビジョンがあった。そして、事業を拡大する前に課題を分解したことが、そのビジョンの実現に役立った。

彼が考えた重要なサブ課題は、「インターネット通販は安全性と利便性、信頼性が高く、割高でないことを、消費者にわかってもらうには?」だった。消費者の安心を得るには、何を売るのがいいだろう?

ベゾスはネット通販向きの商品分類を20種類ほどリストアップした。アパレル、音楽、ソフトウェア、オフィス用品、そして……本。彼は次の基準をもとに、それらの適応性を評価した。

1.保存が利くか? 安全に郵送できるか?
2.品質や性能が一貫しているか、つまり消費者にとってはどの店で買ってもまったく同じか?
3.十分な利益が出るほど安価か? 安く仕入れて安く配送できるか?

本はこれらの基準を軽くクリアした。そのうえ、大手出版社が刊行する全タイトルを保管する、大手の出版取次(卸売業者)が2社あり、簡単に利用することができた。従来型書店はせいぜい数千タイトルの在庫しかリアル店舗に置けず、品ぞろえが限られている。だがこれらの取次と直接取引をすれば、刊行されたすべての本を消費者に提供できる。これは独創的かつ革新的な名案だ!

とはいえ、これを思いついたのはベゾスが最初ではない。オンラインで本を販売する従来型書店はすでにあった。だがこれはベゾスの事前調査でわかったことの1つにすぎない。

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