「被災企業への新規融資を促す仕組みが必要だ」−−二重債務対策ファンド構想を表明した岩手県庁担当者に聞く

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--債権放棄などによってファンドに生じる損失は誰が負担するのか。

その財源確保が一番頭の痛い問題だ。県の財政状況は非常に厳しく、県が損失を穴埋めするのは無理。やはり、ここは国の財政支援に頼るしかない。そういう意味でも、国の協力なしにはファンド実現は難しい。

--既存融資を買い取る対象企業は?

心情的にはすべての被災企業を助けたいが、公的なおカネを使う以上、対象とする企業には一定の基準、ハードルを設けざるを得ない。経営者らが再建への強い意志を持ち、かつ、このファンドを活用すれば再建が可能な企業、事業継続性のある企業が対象になる。

再建計画は当該企業と金融機関が一緒になって作るが、県としても産業振興センターなどを通じて、いろんなアドバイスはできる。大事なのは、このファンドを活用して、三陸の産業を震災前よりも強くすること。たとえば、岩手県内の水産加工産はもともと小規模・零細企業が多く、これまで他県に比べて加工度が非常に低かった。単に元に戻すだけでは、いずれ競争の中で立ち行かなくなる。複数の会社が集まって1次加工から4次加工までを一つの工場でやるなど、震災前よりも付加価値を高める新たな発想、工夫が必要になる。

--民主党、政府も二重債務問題への対策を協議し、第二次補正予算での予算措置を目指している。国による支援策ができた場合、この岩手県版ファンドは構想自体がお蔵入りするのか。

同じようなスキームを国が作ってくれるなら、それでもいい。ただし、共同のファンドを作るとしても、その運用は各地域に任せて欲しい。岩手、宮城、福島の3県では、それぞれ産業も金融も事情が異なる。宮城は大きな企業も多いと思うが、岩手の沿岸はみんな中小・零細企業。地域ごとに事情が違うので、より現場に近い各県単位に分けて運用したほうがうまくいくと思う。

あと、国にお願いしたいのはスピード感。とにかく迅速にやってもらいたい。今のような先が見えない状態が続くと、経営者の再建意欲もどんどん薄れてしまう。われわれが早い段階でファンド構想を公にしたのも、県は被災企業の再建を全力で応援するというメッセージを経営者たちに伝えたかったから。こうした支援策が、困難に立ち向かう経営者らを勇気づけることになる。国がやるならやるで、早くまとめて欲しい。急がないと、経営者の心が折れてしまう。

(渡辺 清治 =東洋経済オンライン)

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