「障害者枠で働くしかない」発達障害男性の心情 「診断をもらわないと就職先がない」のはなぜ?

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メンタル不調に陥る前に辞めるのか、働き続けてメンタルを病むか――。進むも地獄、退くも地獄という状況の中で、たどり着いたのが冒頭の就労移行支援施設だった。

しかし、ここもケンカ別れのような形で辞めてしまう。その後、民間の転職支援会社を使って転職。契約社員として働き始めて数年がたつ。初めての障害者枠での就労で、毎月の手取り額は20万円に届かない水準だが、ハヤトさんは「スキルも資格もない自分には妥当な給料です」。今は勤続5年を超え、無期雇用になることが目標だという。

ハヤトさんは、インド独立の父・マハトマ・ガンディーが社会的大罪のひとつとして挙げた「労働なき富」という言葉をたびたび用い、働かないことへの嫌悪感を隠そうとしなかった。そしてこう持論を展開した。

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「(現状に至った理由について)自分は社会が悪いとは思いません。最初に正社員を辞めてしまったことも含めて自分が悪かったことのほうが多いです。上司に気を遣うとか、同僚と助け合うといった社会人としの感覚が欠けているのは、派遣のような(細切れの)働き方をしてきたから。今の会社で心掛けているのは、甘えすぎないこと、ミスを障害のせいにしないことです。ですから障害者雇用であることは上司など一部の人にしか自分からは伝えていません」。

「もう二度と履歴書は書かないつもりです」

どこまでも謙虚な主張を、世間では賞賛する人のほうが多いのだろうか。一方で私は行きすぎた自己責任論の内在化にはもともと批判的な立場だし、メンタルに不調をきたした人に就労というゴールを強いることは弊害しかないことを取材を通して知っている。

それにハヤトさんが「派遣のような働き方」をしてきたのは、それしか選択肢がなかったからだ。派遣の対象業務が原則自由化される前は、それらは直接雇用であり身分は今ほど細切れではなかった。また、同僚も含めて障害の特性を理解してもらわなければ、障害者枠で就労した意味がないのではないか。

私が、理解を求めることは甘えではないのではと指摘すると、ハヤトさんは「でも、(発達障害ではない)定型発達にもいろいろな人がいますから。障害のせいでミスをしたというとやっぱり角が立つと思うんです」という。職場内カサンドラ症候群とバッシングされることを懸念しているように見えた。加えてハヤトさんは「記事が公開された後、どのような感想があったか教えてほしい」とも言っていた。自身の振る舞いや発言は世間にどう映るのか。ネット上の反応を含めて意識しているようでもあった。

今後について尋ねると、「もう二度と履歴書は書かないつもりです」と答えたハヤトさん。何としても今の会社で働き続けるのだという決意表明である。それまでとは打って変わって力強い口調だった。ハヤトさんとの話は考え方の違いから平行線をたどることもあった。ただもう履歴書は書かないという宣言には、有無を言わせぬ迫力があった。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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