北朝鮮に経済制裁しても体制は崩れない 北朝鮮ビジネス手がけるスイス人が語る真実

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「北朝鮮に経済制裁をしても指導層は困らない」。北朝鮮で実際に仕事をしているスイス人ビジネスマンの言葉が世界中で注目を集めている(写真:KCNA/新華社/アフロ)
金正恩第1書記政権が本格的になった2012年以降、北朝鮮経済が徐々に改善しているというニュースが相次いでいる。首都平壌を中心に、東南アジアなどの新興国と変わらない経済状況になってきているのも事実だ。だが、それでも北朝鮮は「隠遁の国」であり、日米を中心とした経済制裁を受けている国。そんな国に経済やビジネスは成立するのか。
そんな問いに一つの答えを提示した本が出版されている。スイス人のビジネスマンであるフェリックス・アブト氏は2014年『A Capitalist in North Korea - My Seven Years in the Hermit Kingdom』(『北朝鮮の資本家-隠遁の王国の7年間』、Tutle, 2014、邦訳未出版)を出版、現地での豊富なビジネス体験を余すところなく伝えている。スイス企業の駐在代表として2002年に北朝鮮に赴任したアブト氏は実は2009年まで、自社の関連ビジネスや合弁パートナーとの調整、ビジネススクールの開校など、北朝鮮に資本主義・市場主義のビジネスを吹き込んだ。実際の北朝鮮経済はどうなのか。現在はベトナムに住むアブト氏に、北朝鮮ウォッチャーでジャーナリストのエミル・トルシュコフスキ氏(在日本)が聞いた(構成:福田恵介)。

――日本だけでなく、欧米メディアの北朝鮮報道で経済・ビジネス関係のニュースが報じられることは少ない。

その通りだ。だからこそ、私はマスメディアがまったく報道しない北朝鮮を紹介した。同時に、“不思議な”国の庶民の生活を紹介しようと努めた。西側メディアの北朝鮮報道は、勘違いに基づいたステレオタイプなものばかりだ。単なる噂に基づいたニュースが多く、実際の現地の状況を正しく見せていない。また、西側メディアは、北朝鮮の人々は『洗脳されたロボット』というイメージを強く持っているようだ。

ビジネススクールで「北朝鮮人企業家」の育成も

――スイスに本社を置く電力・オートメーション技術などの大手のABBグループに勤務し、その代表として北朝鮮に転勤した。平壌の7年間はどのような生活だったか。

(北朝鮮のビジネススクールで学生と話すアブト氏、写真も同氏提供)

人生で最も忙しい時期だった。ABBの仕事だけでなく、さまざまなジョイントベンチャーに参加しており、また自分でもビジネスを立ち上げていた。北朝鮮ビジネスをよく知らない外国人企業家の相談にも乗って、彼らに新たなビジネスチャンスをアドバイスしたこともあった。北朝鮮の銀行システムが海外とはうまくつながっていないため、スーツケースにびっしりと現金を詰めて行き来したことも、当時はたいへんだったが、今ではいい思い出だ。

平壌在住の外国人とともに、北朝鮮では最初の外国人商工会議所を設立した。また、2004年には平壌ビジネススクール(Pyongyang Business School)を立ち上げた。

この学校で、北朝鮮の人が海外の専門家から企業経営などのビジネススキルを学び、同国の工場や企業をより効果的に運営できる方法を学んだ。受講者の中には、起業する人もいたほどだ。彼らからもさまざまなビジネスアイデアも生まれていた。海外企業と互角に競争できるようなビジネスパーソンを育成することが目標だったが、米国などの経済制裁でスポンサーを失って閉校せざるを得なかったのが非常に残念だ。

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