なぜ小田急が?「ご近所向けSNS」開発の舞台裏 「回覧板」の負担軽減、沿線飛び出し全国拡大
だが、最初から自治会・町内会向けのサービスを考案したわけではない。“通勤の途中で買い物を受け取れるサービス”や“車内で座れるよう駅で椅子のレンタル”などさまざまなアイデアを考える中で思い浮かんだのが、東海林氏の祖母が直面していた「高齢者の社会的孤立」という課題だった。
東海林氏の祖母は秋田県出身で、高齢になってから首都圏に転居。このため近所付き合いが少なく、会話するのは同居する東海林氏の母とヘルパー程度で寂しい思いをしていたという。同じような状況の高齢者を、自治会や敬老会など地域のお年寄りが集まっている団体と何らかの方法でつなぐことはできないか――。この発想が企画の出発点となった。事業公募制度は「社会課題の解決」を1つの軸としており、東海林氏のアイデアは選考を突破した。
自治会が抱える「情報共有」の課題
具体的な動きは2019年にスタートしたが、企画の発端が「高齢者の社会的孤立の解決」だけに、当初から地域向けSNSの作成に絞っていたわけではなかった。「例えば近所のお年寄り同士がテレビ電話で会話しながら、地域の人がファシリテーションするといった『ご近所通話』のような仕組みを考えていた」と東海林氏は言う。だが、実際に自治会関係者や地域住民の話を聞くと、別のニーズが浮かび上がってきた。
出身地や当時の勤務地が小田急沿線の神奈川県秦野市だったことから、東海林氏は同市の担当部署に市内の自治会を紹介してもらい、関係者に現状の課題などをヒアリングして回った。自治会のほか、独居女性が集まる会や、駅前を歩いているお年寄りにインタビューするなど150人以上に話を聞いた結果、見えてきたのは自治会の抱える「情報共有」の課題だった。
東海林氏が調査を進めると、自治会の役員らはお年寄りが会を辞めて孤立してしまうことを危惧してイベントを企画するなど工夫しているものの、「会の活動をしっかりと知らせる方法が欲しい」と考えている関係者が多いことがわかった。回覧板は手間がかかり、情報が行きわたるまでに時間がかかる。災害時の防災情報提供も大きな課題だった。
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