なぜ小田急が?「ご近所向けSNS」開発の舞台裏 「回覧板」の負担軽減、沿線飛び出し全国拡大
また、情報発信用にホームページやツイッター(現X)などを運用している自治会もあるものの、「できれば自治会専用のものが欲しい」との意見もあった。そこで生まれたのが「自治会・町内会専用SNS」という発想だった。
試作品は2019年秋に完成し、小田急と街づくりなどに関して連携協定する秦野市の協力のもと、同市内の約400世帯が加入する自治会で試験的な運用を開始。当初はブラウザー上で動作するシンプルなサービスだった。ここで得られた経験を基に改良を加え、翌2020年6月には同市全域の約40自治会で実証実験を開始した。
「いちのいち」という名称は、「地域のつながりが今後の社会を支える上での1丁目1番地」(東海林氏)という意味を込めている。ロゴは青で、一見すると小田急カラーのようにも思えるが、実際には「とくに意識していない」という。
試験を重ね機能見直し
現在の「いちのいち」はパソコンとスマホアプリの両方で利用でき、自治会からのお知らせを表示する電子回覧板的な役割の「ホーム」のほか、自治会・町内会内の役員会や子供会といった個別のグループで情報発信・共有できる「コミュニティ」、自分のプロフィールなどを登録して地域住民との交流につなげる「マイページ」、そして災害情報などを発信する機能がある。これらは試験運用や実証実験の結果を踏まえてつくられた。
試験段階で不要と判断されて消えた機能もある。悩みなどを相談する「助け合い広場」だ。これは「困りごとを投稿して住民同士でアクションしてもらう」(東海林氏)という狙いだったが、地域の誰もが見られる場所に実名で悩みを投稿するのはハードルが高かった。これは特定の参加者同士でやり取りできる「コミュニティ」機能で代替することにした。
実際に市内の約40自治会に導入されると、「回覧板だと行事の案内があっても終わった後に回ってくるが、このシステムならすぐに見られる」「写真もアップロードされるので、地域清掃や火の用心の見回りなどの様子がリアルタイムで見られるのがいい」といった声が寄せられた。また、雨でイベントを中止するといった告知や、地域によっては訃報の伝達に使われた例もあったといい、「情報の迅速性や気軽に投稿できるという点では一定の評価をいただいた」と東海林氏は話す。
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