ファンケル創業者が引退撤回、大胆戦略へ 利益6割減で挑む賭けは吉か凶か

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しかし、あえて目先の業績を落ち込ませ、5年後の成長を描いた今回のストーリーを、その通りに進めるのは容易ではない。2つの”依存”が同社のネックとなる可能性がある。

主力事業である化粧品にも広告を積極投入する

一つは基本戦略に据えた、広告投資への依存だ。2015年度は前年度と比べて約2.5倍となる87億円(先述の重点商品への55億円含む)の広告宣伝費を健康食品事業につぎ込む。これは実に2014年度の最終利益の4倍に近い。投資額に見合う成果を得られなければ、中計の出だしから目算が狂いかねない。

売上高の6割を占める主力の化粧品事業についても、健康食品事業ほどではないものの高水準の広告投資を継続して行う予定であり、効果の見極めが重要となる。

もう一つは、会長兼CEOで実質的な筆頭株主でもある池森氏への依存だ。

現在77歳の池森氏は1981年にファンケルの前身となる会社を創業し、社長に就任。1999年に同社を東証一部上場へ導いた後、自ら定年制を敷き2003年に会長、2005年には名誉会長へ退いた。

ところが、減益傾向が続く業績に業を煮やし、2013年1月に経営再建のため突如現場に復帰。同年6月から現職に就いた。この時、池森氏は自身の任期を3年間と区切っていたが、決算説明会では”驚き”の発言が飛びだした。「新中計というアドバルーンを上げた以上、達成メドが付いたところで引退する」と、これまでの引退宣言を撤回したのだ。

後継者の育成が課題

この続投宣言について、同社のある幹部は「オーナーとして引き続きやってもらいたい。チャレンジする時期なので社内に異論はない」とする。池森氏も「社員の賛同を得ている」と意に介さない様子だ。

ただ、ファンケル社内では池森氏に物が言えない空気になっていても不思議はない。同社では2013年4月から、ダイエー創業者の故・中内功氏に長く仕え、同社常務執行役員などを務めた宮島和美氏が社長に就いているが、CEO職は依然、池森氏にある。しかも、宮島社長は池森氏の義弟(池森氏の妻の弟)という微妙な関係だ。

狙い通りに成長軌道に乗るにしろ、業績が回復せず投資戦略の軌道修正を迫られるにしろ、次世代へのバトンタッチはそう遠くないうちに必要になる。ファンケルにとっては後継者の育成も喫緊の課題だ。

二階堂 遼馬 東洋経済 記者

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にかいどう りょうま / Ryoma Nikaido

解説部記者。米国を中心にマクロの政治・経済をカバー。2008年東洋経済新報社入社。化学、外食、ネット業界担当記者と週刊東洋経済編集部を経て現職。週刊東洋経済編集部では産業特集を中心に担当。

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