開業「宇都宮LRT」、黄色い路面電車への期待度 全国初の全線新設路線、車社会で定着するか
圧倒的な車社会である宇都宮で初となる路面電車の導入は、批判の声にもさらされてきた。2013年に計画が具体化すると、市民団体がLRT導入の是非を問う住民投票実施に向けた署名活動を実施。これは翌2014年の市議会で否決されたものの、2016年の市長選ではLRT計画を推進してきた現職の佐藤栄一市長と、反対派の対立候補との票差が約6000票の「辛勝」となるなど、その後もLRT計画は市政の争点となった。
また、費用の増大も批判を招いた。2021年1月、市は約458億円だった概算事業費が、地盤改良や豪雨対策の強化などを理由に約684億円(宇都宮市・芳賀町分合算)に増えると発表。費用増そのものもさることながら、LRTの是非が再び争点の1つとなった前年11月の市長選から約2カ月後という公表のタイミングが議論を呼んだ。
市は運営収支について、需要が定着した開業4年目の時点で年間約1.5億円の黒字、9年で累積損失の解消を見込む。需要予測は平日1日当たり約1万6300人だが、これは2016年に策定した数値だ。
コロナ禍によるテレワークの普及などで鉄道の通勤定期利用が全国的に減少する中、需要が予想を下回れば経営計画にも影響が及ぶ。佐藤市長は開業日の記者会見で「1万6000人という数値は達成できるようにしていかなくてはならない。在宅勤務が増えたとされるが、工業団地の話を聞くとほとんどが出勤を求めているといい、会社の声を聞いて利用しやすい環境をつくっていきたい」と述べた。
「街の軸」として効果発揮できるか
一方、LRTの効果は鉄道単体での採算性だけでは図れないのも事実だ。関東信越国税局が7月に発表した栃木県の路線価(1月1日時点)は、LRTの起点となる宇都宮市宮みらい(宇都宮駅東口駅前ロータリー)が4年連続で最高となり、開業後の活性化への期待感が地価上昇につながっているといえる。
沿線の住宅にも注目が集まっているようだ。開業日に定期券売り場に並んでいた、5月に市内に転居したという30代男性は「JRを利用して通勤するので駅のそばに住もうと思ったが、不動産業者がLRTができると教えてくれたので少し離れた場所にした」と話し、LRT開業による利便性向上への期待が住居選びの決め手になったと語った。
不動産情報サービス「LIFULL(ライフル)」の調査によると、LRT沿線賃貸物件の平均賃料(2023年4月)は6万7626円、ほかの町域は5万8100円だ。新築物件の2020年10月~2023年4月にかけての平均賃料も、LRT沿線が31.9%上昇したのに対し、その他の町域は19.6%で、沿線の物件の人気が高まっているとみられる。
企業立地や人口の増加が進めば税収増につながり、さらにLRT周辺に人口が集中するようになれば、インフラ維持のコストを抑え「コンパクトシティ」の効果が発揮できるようになる。
開業式典で佐藤市長は「今後はLRTを最大限に活用し、全国の地方都市のモデルとなるよう、50年先、100年先も持続的に発展できる街づくりに取り組む」と述べた。LRTが新たな交通機関として注目を集める中、日本初の全線新設路線として開業した芳賀・宇都宮LRT。その成否は、今後日本にLRTという交通、街づくりのシステムが根付くかどうかを占う試金石となる。
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