はとバスをV字回復させた社長の習慣 宮端清次著
観光バスツアーでおなじみの「はとバス」。旅行新聞新社主催の「プロが選ぶ観光バス30選」では、9年連続でトップの座に輝き続ける。観光バス業界のリーディンカンパニーと言ってよい。しかし、同社が1998年倒産寸前に陥っていたことを知る人も少なくなってきた。バブル崩壊により業績は4年連続で赤字、70億円もの借入金を抱えていたのだ。
火中の栗を拾うタイミングで社長に就任したのが著者の宮端清次氏。なんと初年度で黒字化を達成し、在籍中の4年間で累積損失も解消した。
著者がはとバスを華麗なるV字回復へと導いた秘密は、当時心がけていた「社長の習慣」にあるという。本書ではその習慣を8つに分けて紹介している。リーダーにとって“背中の見せ方”が重要であるかがよくわかる。
先行き不透明の中、合理化による給与カットなどで大きな不安と不満を抱く社員の意識改革は簡単なことではない。そこで著者は、「人を動かしたかったらまずトップが動く」をモットーに行動を起こしていった。
例えば、自ら朝一番のバスに乗り込んで乗客に挨拶をする。全社員の名前を覚えて声をかけ、社長室を撤廃する。社長車を共有車にして往復3時間以上の電車通勤を始める。自腹で、はとバスツアーに参加し、苦情には自筆で返事を書く。社員とともに汗を流し、再建を誓う“リーダーの本気”を行動や態度によって地道に伝えていったのだ。
著者は言う。「トップに立つ者は、ソファに深く腰掛けてたタバコをふかしていてはいけないのです」。耳が痛いトップも多いだろう。
それだけではない。著者は「末端は社長であり、お客様と接する現場の社員は先端」と考える。何よりも現場の社員を大切にした。社長に直訴できる投書箱を設置したり、暗かった控室を改装するなど、社員の声を受け止め、社員のやる気を引き出す努力を惜しまなかった。
一方、人件費削減のためのリストラは一切行わなかったが、はとバスにとってマイナスと思われる社員はクビにしている。「社員100人中1人でも問題があったら成果はゼロになる」というのがサービス業の基本。お客様第一主義を徹底する厳しさをあらゆる場面で貫いたのだ。
シンプルで明確な経営方針の重要性や、緊急時には“選択と集中”よりも“絞り込み”が有効であるといった教訓やリーダー論は、是非とも企業のトップや管理職はおさえておきたい。東京都庁職員時代のエピソードも興味深い。異端児として睨まれながら民間企業のスタンスで都庁の仕事に奔走してきた著者のチャレンジ精神も見習いたい。
他にも、具体的な成功例や失敗例が盛り沢山だ。震災の影響で苦境に立たされている観光及びサービス業界関係者はもちろん、起死回生を迫られているあらゆる企業は何かしらのヒントを本書から得られるのではないだろうか。
混迷時代のリーダー像と再生のノウハウを模索する全ての人にとって、必読の書といえる。
祥伝社 1470円
(フリーライター:佐藤ちひろ=東洋経済HRオンライン)
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