世界的権威が警告する「中国の影響力工作」の脅威 尖閣や歴史問題で誘発されている「社会的不和」

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シャープパワーでは「情報等を意図的に操作して、対象国に深く入り込んで、混乱を引き起こすこと」を狙います。民主主義国家では、政府が民間の商取引への介入やメディアの言論を統制することはできないので、シャープパワーの影響力工作に対しては脆弱です。ソフトパワーに加えシャープパワーの工作が招く事態を想像すると、実に恐怖を感じます。

先に紹介した『中国の情報侵略』で取り上げられていた内容は、主に、中国共産党中央統一戦線工作部(UFWD)や中国共産党中央宣伝部(CPD)の活動を中心とした影響力工作の話でした。中国のGDPが世界第2位になった2010年頃から一層活発になってきたとされています。

それ以外にも、2015年の中国共産党人民解放軍の再編の際に設置された戦略支援部隊(SSF)の中で、「攻撃的心理戦のプロ部隊」と呼ばれる、より高度な認知戦、サイバー戦の手法を駆使する部隊による台湾での活動も近年活性化しているとされています。今後、影響力工作の先進国ロシアの手法が模倣され、高度化されていくことが予見されます。

影響力工作対策は最大のチャレンジ

さて、改めて、影響力工作は何が狙いで、目的はなんでしょうか。影響力工作の目的は「選挙介入」などいくつかあるのですが、最も有力なものの一つが「社会的不和の誘発」です。

ターゲットとする敵対国家に対し、偽情報を拡散したり、機密情報をリークしたりして、混乱と不信感を増幅させ、個人や国家の意思決定へ干渉することを狙います。そして、敵対国家における世論の分断化などにより、その国の指導者の求心力を弱め、重大なことへの政治的決断を困難にすることが目的です。

最近では、新型コロナやその対策に関することやLGBTQなど、真偽の判断がつきにくいことや、価値観によって考え方が違うテーマについて、意図的に論争が巻き起こされ、社会が混乱させられている可能性が指摘されています。

上記以外に、日本に対する特有のテーマとして、尖閣諸島問題、ALPS処理水海洋放出問題、歴史問題や沖縄の帰属問題などが、影響力工作の対象となっている可能性が推察されます。社会的不和の誘発を目的とした影響力工作への対策としては、一般に、メディアリテラシーの向上や、偽情報に対するファクトチェックなどが知られています。

しかしながら、それらの効果はいずれも限定的です。とくに、ファクトチェックは、影響力工作に対しては効果しないことが少なからずあります。影響力工作では、偽情報だけでなく、秘密を暴露するケースや真偽が判別つかないテーマを用いる手法が使われるからです。

自由主義国家では、専制国家のように厳しい情報統制を導入することは、表現の自由など自らの理念を否定することになるので、困難であると言えます。

しかしながら、レッドラインを超えた影響力工作を検知し対処しなければ、敵対国家の狙い通り、社会が混乱して、世論が分断し、国家が脆弱になっていくことでしょう。結果、「戦わずして負ける」となります。

日本を含めた自由主義国家にとって、影響力工作への対策は最優先で取り組むべき課題であり、今後最大のチャレンジと言えそうです。

齋藤 孝道 明治大学サイバーセキュリティ研究所所長

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さいとう たかみち / Takamichi Saito

明治大学理工学部情報科学科教授、博士(工学)。明治大学サイバーセキュリティ研究所所長。レンジフォース株式会社代表取締役。専門は、情報セキュリティ技術全般。特に、Webブラウザフィンガープリント技術、サイバー影響力工作などAI技術応用。IPA情報処理安全確保支援士試験委員などを歴任。著書に『マスタリング TCP/IP 情報セキュリティ編・第2版』(オーム社)、『ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する』(原書房)がある。

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