原油急反転で狂う「金融緩和シナリオ」 世界的株安・債券安の裏にあるもの

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実際、原油価格上昇による影響は物価にじわりと広がり始めている。日本の3月コア消費者物価指数(CPI、生鮮食品除く)は消費増税の影響を除いて前年比0.2%上昇。前年比横ばいだった2月に対し、ガソリンや灯油の上昇の影響でプラス幅が拡大した。

日本以外の国でも消費者物価が上昇

欧州金利上昇のきっかけは前月29日に発表されたドイツの4月CPIが、EU基準で前年比0.3%上昇と2カ月連続のプラスとなり、上昇率は予想の0.2%を上回ったことだった。米国の3月CPIもガソリンや家賃・宿泊費などに物価上昇の兆しが出始めている。

こうした物価の動きに対し、市場では世界的な金融緩和競争に一巡感が出始めているとの見方も増え始めてきている。

オーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)は5日、政策金利を過去最低の2.0%に引き下げた。豪ドルはいったん下落したものの、緩和サイクルが終了したのではないかとの思惑からすぐに上昇に転じた。声明で景気の一部改善に言及したうえで、一段の措置が必要になる可能性があるとの文言が削られたことなどから、市場では政策金利が2%を割り込むとの見方は後退した。

もっとも、米国や中国など世界景気は依然弱く、物価は上がったといっても日米欧中銀の目標である2%には程遠い水準だ。原油価格上昇で消費が圧迫されれば、緩和環境は継続されるとの見方も強まりやすい。原油価格の下落が功罪両方あったように、原油価格の上昇にもプラスマイナス両面がある。物価や景気への影響は読みにくい。

三菱東京UFJ銀行シニアマーケットエコノミストの鈴木敏之氏は、先行きの不透明感が強まってきたこと自体が、投資家のポジションを巻き戻させる要因になっていると指摘する。「原油価格に対するサウジアラビアの態度が変わったのかという根本的なところがまだ見えない。現在の調整はあくまで先行き不透明感に対してのものだ」との見方を示している。

今後、「緩和シナリオ」の本格修正を余儀なくされるかどうかは、原油価格の動向にかかってきそうだ。米原油先物の昨年6月高値の107ドルから今年3月安値の42ドルまでの下落幅は65ドル。半値戻しであれば74.5ドルがめどとなる。

ばんせい投信投資顧問・商品運用部ファンドマネージャーの山岡浩孝氏は「米原油在庫がピークを打ったとはいえ、5年ぶりの高水準であり、供給面での価格圧迫要因は消えていない。さらに景気の弱さからみて需要面でも原油がどんどん上昇していくとは考えにくい」と話す。

ただ、需給要因だけで下落した相場ではないだけに、半値戻しの水準を超えてくれば、テクニカル的にも本格的な上昇局面に入る。グローバル緩和相場にとっても、1つの分岐点になりそうだ。

(伊賀大記 編集:宮崎大)

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