東急が「ニコタマ再開発」の先に描く青写真 沿線価値向上のために何を進めるのか

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東急多摩川線(写真)と京急空港線を地下ルートで結ぶのが「蒲蒲線」構想だ(撮影:尾形文繁)

さらに東急は、将来構想として「蒲蒲線」を計画している。これは、東急多摩川線・蒲田駅と京急空港線・京急蒲田駅を地下ルートで結ぶものだ。

開通すれば、東横線や東京メトロ副都心線が蒲蒲線を経由して羽田空港に直行できる。新線の総延長は800メートルほどだが、事業費は1080億円と試算されている。また、東急線と京急線とではレールの間隔が異なるため、この対応が必要になる。

3月6日に東京都が発表した「広域交通ネットワーク」の中間まとめにおいて、都が「整備効果が高い」と位置づける5路線に、蒲蒲線は含まれていなかった。が、東急は熱意を捨てていない。「蒲蒲線が完成すれば東急沿線から羽田空港に直接行けるので、沿線のイメージアップにつながる」(野本社長)。さらなる沿線価値の向上に向け、東京オリンピックの時間軸にとらわれず、地道に実現への議論を進めるという。

このように、東急には将来のビッグイベントが目白押しだ。そのため、“ジャンプ”に備えた“ステップ”に当たる2015~2017年度は、経営体力を蓄えていく時期ともいえる。

早急に対応すべき問題も

ただ、一刻も早く対応しなくてはいけない課題もある。たとえば、「安全投資については、大半を2017年度までにやってしまいたい」と野本社長は言う。安全への取り組みに急ぎすぎるということはないからだ。

もう1つは、田園都市線の混雑対策だ。2008~2009年に大井町線を溝の口駅まで延伸し、急行運転を開始することで田園都市線の乗客の一部を大井町線にシフトすることはできたが、池尻大橋―渋谷間の混雑率は今なお183%という都内屈指の混雑ぶりだ。

JR東日本は巨費を投じて上野東京ラインを今春に運行開始したことで、山手線や京浜東北線の混雑が緩和した。一方の東急は新線建設のような大型設備投資は行わず、「時差通勤者にはポイントを付与するなどの仕掛けを考えていく」(野本社長)という。

知恵の力でどこまで混雑を減らせるか。今回の中計では語られていないが、混雑問題への取り組みは大きな課題である。何より、東急が目指す沿線価値向上のためには避けて通れないはずだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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